新年早々数学の話題
2021.01.21
数学IIIで習う[sin(x)]/xについて、x→0の極限が1になることの説明に数学的な疑義がある、という問題があり、2013年度の大阪大学理系前期日程の第1問に出題されて有名になりました。この[sin(x)]/xは「カーディナルサイン関数」とか「非正規化sinc関数」などと呼ばれるもので、sincは「シンク」と発音する人と「ジンク」と発音する人がおり、一般に「sinc(x)」と書かれます。この問題に関する「インチキな」解法を思いついた、というのが今回の話題なのですが、その前に数学の先生によるちゃんとした説明を紹介しておきます。
関西学院大学 川中 宣明 先生(代数学) による解説
宮城教育大学 瓜生 等 先生(微分方程式論) による解決案
高知工科大学 井上 昌昭 先生(確率論) による解決案
新潟工科大学 竹野 茂治 先生(双曲型保存則方程式) による考察(PDF)
北海道大学 松本 圭司 先生(特殊関数論)による再構築案
難しい話も出てきますが、この問題は結局「円の面積はπr^2だと言ってよいかどうか(ちゃんと証明していないじゃないか)」という一点にかかっています。
私が思いついた解法にはcos(0)の微分係数を使います。まず原点が中心で半径1の円(単位円)を用意し、円周上に点A(1,0)と点B(cosθ,sinθ)を取ると、角AOBが偏角θをなし、弧ABの長さが弧度になります。ここで微分の定義に従って計算すると、cos'(0)=0すなわち「θ=0から微分小dθの増減があるときcosθは増減しない」が言えて、そのときの点Bが座標(1,sinθ)にあると見なしても誤差は無限に小さいことがわかります。弧ABとは円周上の点がAからBまで動いた軌跡なので「点Aからθが微分小の増減をするとき弧AB=θと線分AB=sinθが一致する」つまりθ→0のときθの極限とsinθの極限は等しく、ゆえにθ→0のとき[sin(θ)]/θ=1といえます。
この証明は厳密さを欠いており、すくなくとも「円の面積はπr^2だと証明もせずに言ってしまった」解答と同じくらい「ダメな」解答なのですが、しかしこれを「間違い」だと言ってしまうと矛盾を認めることになります。つまり、高校数学で習う範囲の微分の知識で本当に「接線が引ける」のなら、上の議論も正しいということになり、この証明が間違っているのだとすれば、高校数学の微分で接線を決定するのも誤りだということになります。微積分を厳密に定義しなければ、円の面積がπr^2だと言えないばかりか、接線を引くこともできない、とも言い換えられます。
大阪大学の受験生にこんな捻くれた回答をした人がいたのかどうか、知る方法はありませんが、もしいたとしたら何点もらえたのでしょうか。円の面積を証明なしで使った回答は、私の予想だと、満点ではないかもしれませんが、かなり高い得点をもらえたのではないかと思います。こうやって眺めてみる分には面白い問題ですが、円の面積を使って解いてから「これって証明できていないんじゃないか」と気付いた(おそらくは試験会場の中でもかなり優秀な)受験生が損をしたかもしれないと思えば、入学試験の問題としては少し配慮に欠けるところがあったかもしれません。
関西学院大学 川中 宣明 先生(代数学) による解説
宮城教育大学 瓜生 等 先生(微分方程式論) による解決案
高知工科大学 井上 昌昭 先生(確率論) による解決案
新潟工科大学 竹野 茂治 先生(双曲型保存則方程式) による考察(PDF)
北海道大学 松本 圭司 先生(特殊関数論)による再構築案
難しい話も出てきますが、この問題は結局「円の面積はπr^2だと言ってよいかどうか(ちゃんと証明していないじゃないか)」という一点にかかっています。
私が思いついた解法にはcos(0)の微分係数を使います。まず原点が中心で半径1の円(単位円)を用意し、円周上に点A(1,0)と点B(cosθ,sinθ)を取ると、角AOBが偏角θをなし、弧ABの長さが弧度になります。ここで微分の定義に従って計算すると、cos'(0)=0すなわち「θ=0から微分小dθの増減があるときcosθは増減しない」が言えて、そのときの点Bが座標(1,sinθ)にあると見なしても誤差は無限に小さいことがわかります。弧ABとは円周上の点がAからBまで動いた軌跡なので「点Aからθが微分小の増減をするとき弧AB=θと線分AB=sinθが一致する」つまりθ→0のときθの極限とsinθの極限は等しく、ゆえにθ→0のとき[sin(θ)]/θ=1といえます。
この証明は厳密さを欠いており、すくなくとも「円の面積はπr^2だと証明もせずに言ってしまった」解答と同じくらい「ダメな」解答なのですが、しかしこれを「間違い」だと言ってしまうと矛盾を認めることになります。つまり、高校数学で習う範囲の微分の知識で本当に「接線が引ける」のなら、上の議論も正しいということになり、この証明が間違っているのだとすれば、高校数学の微分で接線を決定するのも誤りだということになります。微積分を厳密に定義しなければ、円の面積がπr^2だと言えないばかりか、接線を引くこともできない、とも言い換えられます。
大阪大学の受験生にこんな捻くれた回答をした人がいたのかどうか、知る方法はありませんが、もしいたとしたら何点もらえたのでしょうか。円の面積を証明なしで使った回答は、私の予想だと、満点ではないかもしれませんが、かなり高い得点をもらえたのではないかと思います。こうやって眺めてみる分には面白い問題ですが、円の面積を使って解いてから「これって証明できていないんじゃないか」と気付いた(おそらくは試験会場の中でもかなり優秀な)受験生が損をしたかもしれないと思えば、入学試験の問題としては少し配慮に欠けるところがあったかもしれません。