受験術の本
2020.11.30
数学受験術指南(ISBN 978-4-12-205689-3)

最初に断っておきたいのですが、これは古い本で、1981年に出版された本の文庫版です。書かれたのは著者の言う「ガンバリズム」の全盛期で、著者自身が経験した「受験」も今とはまったく異なるものだったことは、気に留めておかなければなりません。とくに第1章は、当時の受験教育の様子を知らない人には何を言っているのかわかりにくいでしょう。

しかしそこさえ差し引いておけば、第2章以降は、これから受験をする人にも、かつて受験をした人にも、面白い読み物になってくれます。全体としては「わからないことがないように準備する」「ガンバリ」は効率が悪いから「わからないことに対して理屈の通った答えが出せる」「ウマイコト」を目指してみようという論調で、採点の現場を経験したからこその裏話や、著者自身の受験体験、自分の専門分野である数学の宣伝など、寄り道もバランスよく交えながら、一気に読める程度の分量で書かれています。

京都大学の教授が書いた本、と聞くと難しそうな印象を持つかもしれませんが、小難しいことは書いてありません。巻末のほうに、著者が「毎日中学生新聞」に寄稿したというコラムがいくつか転載されており、文章の難しさは本編と似たようなものです。初めてこの本を読む人は、217ページの「解説」から読み始めると、面食らうことなく楽しめるでしょう。

キミは何のために勉強するのか 試験勉強という名の知的冒険2 (ISBN 978-4-479-19052-3)

タイトルの酷さが壮絶すぎて、思わずフルタイトルで掲載してしまいました。以前書いたように、私は本棚に本を並べるのを趣味にしているのですが、生まれて初めて「ブックカバー」なるものを買ってしまおうかと本気で考えました。

私の個人的な思いはさておき、これは「教える科目や学年に関わらず、先生になりたい人」にぜひ読んで欲しい本です。受験生の親の読み物としても、多少の読みにくさを克服できるなら面白い本ですが、子供にこれを「読ませよう」とはしない方が無難です。タイトルに「2」とついているからには「1」も出ており、まなびやの蔵書にも入っていますが、こちらは「2」が気に入った人だけ手に取ってみればいいかなと思います。

この本が言っているのはようするに「高校までの勉強でちゃんと『 抽象性』を身に付けておいてよ、でないと浪人してからの1年間じゃどうにもできないよ」(かなり悪意のある意訳)という訴えと、その抽象性を身に付けるための方法論、あとは「自己不信は恐ろしいよ」とか「むやみに可能性の幅を狭めるのは損だよ」といった忠告です。初版の2012年から8年経ち、受験生が抽象性を扱う能力は低迷の一途を辿っていますから、私を含め「子供に教える」立場の者なら一度は考えてみるべき内容です。

最後に、この本を手に取った、あるいはタイトルだけ見て手に取らなかった受験生に言っておきたいのですが、著者は予備校の英語の先生として最優秀の人です。私も浪人したときに1年間受講し、ちゃんと成績も伸びました。そのことは言い添えておきたいと思います。

-関連記事-
図書貸出のお知らせ
2020.11.30 22:42 | 固定リンク | 本の紹介
電子教科書や電子ジャーナルなど
2020.11.21
ものによって条件は異なりますが、誰でも自由に利用できる教科書や学術情報を、英語でOpen TextbookとかOpen Access Journalなどといいます。教育インフラであるOER(Open educational resources)の系統と、研究成果の社会還元であるOA(Open Access)の系統があり、現在のところ日本では後者が目立っています。

Open Educational Resources | ScholarWorks@GVSU
グランドバレー州立大学図書館(Grand Valley State University Libraries)のオープン教育リソースです。大学自体はアメリカのミシガン州にあります。

The Open Textbook Library
ミネソタ大学ツインシティ校のオープンテキストライブラリーです。これもアメリカの大学で、ミネソタ州立大学とは別の学校です。

J-STAGE
「国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォーム」で、正式名称は「科学技術情報発信・流通総合システム」です。

2000年代の始めごろは、日本の大学も教科書を無償で公開してくれるところが多くあり、私も大変お世話になりましたが、最近は数が減っているようです。
2020.11.21 19:37 | 固定リンク | 雑談
新型コロナウイルス感染症の情報について
2020.11.13
紋別市近辺では、これまでのところ、新型コロナウイルス感染症の大規模な蔓延は見られませんでした。しかし、北海道全体では感染拡大が続いており、この近隣でも「備え」を見直しておくべき時期かもしれません。その第一歩として、新型コロナウイルス感染症に関する情報源をまとめました。
2020.11.13 22:45 | 固定リンク | 未分類
あのころはフリードリヒがいた ほか
2020.11.11
左から、あのころはフリードリヒがいた(ISBN 4-00-114520-0)、ぼくたちもそこにいた(ISBN 4-00-114567-7)、若い兵士のとき(ISBN 4-00-114571-5)
 
最初にちょっと苦情を書いておくと、この3冊の本はもちろん互いに関連がある作品でしょうが、岩波書店が裏表紙側のカバーに書いている「続編」というのは、ちょっと誤解があるのではないかと思います。それぞれの作での42年の空襲のシーン、あのころはフリードリヒがいた220ページ、ぼくたちもそこにいた226ページ、若い兵士のとき34ページを読めば、これが別々の人の話であることはすぐわかりますし、全編を読み返したわけではありませんが私が覚えている限り、主人公が名前(作者である「ハンス ペーター リヒター」)で呼ばれるシーンは「若い兵士のとき」にしかありません。なお原作の初版は、左から、1961年、1962年、1967年です。

もうひとつ不幸なことに「あのころはフリードリヒがいた」から「ベンチ」の章が、教育出版の中学1年生向け国語教科書「伝え合う言葉」に採用されています。なぜそれが不幸なのかといえば、日本では、国語の教科書に載った本は「みんなが嫌いな本」になるからです。夏目漱石でさえ、その被害からは逃げ切れません。さらに悪いことに、よほど短い話でなければ、前後のつながりを分断された形で掲載されます。とくにこのリヒターの作品のような「最初から最後まで読んで初めて中身がある」本にとっては、悪夢のような仕打ちです。そういった不幸に巻き込まれた人たちには、この本を最初から、ぜひ巻末の「註」や「年表」を参照しながら、読んでみて欲しいと思います。

続編というのはちょっと、とケチはつけましたが、この3冊の本はやはり、写真で紹介している順に読むのがよいでしょう。とくに1冊めの「あのころはフリードリヒがいた」は、すべての人にとって貴重な経験になります。いま私たちが暮らしている以外にもたくさんの場所・時代・立場があって、私たちが知らない習慣・事情・考えがあり、私たちの想像を絶する出来事が起きるけれど、しかしそれらは私たちとまったく無縁の世界ではない、という経験です。だから、この話を読んで「何を言っているのかわからない」というのは正しい感想で、自分たちの常識や価値観だけでは測れない世界がある、ということを体験できた証拠になります。

3冊めの「若い兵士のとき」だけ構成が違い、註や年表がついておらず、断片だらけでまとまりに欠け、正直なところ読みやすくはありません。おそらくですが、作者が書きたかったのはこの3冊めで、先の2冊は読者にとっても作者にとっても「助走」みたいなものではないかと思います。冷静な目で見れば、先の2冊は失敗作(目指していたであろう「本当のこと」にまでは到達できなかった物語)だとも解釈できますが、その失敗を共有することでこそ、3冊めが伝えようとした現実のほんの端っこだけでも、うかがい知ることができるのかもしれません。

-関連記事-
図書貸出のお知らせ
2020.11.11 23:26 | 固定リンク | 本の紹介
単語帳など(中高)
2020.11.10
左から、中学英単語α(ISBN 978-4-87217-939-2)、中学英単語1850(ISBN 978-4-05-304144-9)、中学英熟語430(ISBN 978-4-05-304145-6)

左の「α」は大学受験生を含めすべての生徒におすすめしている英単語帳です。本当に必要不可欠な単語に絞りに絞り込んであるため、たとえば高校1年生なら、この本から毎日1単語辞書を引く勉強を2年くらい続ければ、英語の力は飛躍的に伸びます。中学生にとっても、この本だけだと説明が無理すぎるような部分もありますが、基本的な言葉をイメージで教えてくれるメリットがあります。右は単語帳ではなく熟語帳で、入門レベルのものの中ではこれが一番しっかりした内容です。中央は「もう少し語数が多いもの」がぜひ欲しいという生徒用にいちおう準備したもので、無難な内容です。

左から、とみ単(ISBN 978-4-479-19048-6)、DUO select(ISBN 978-4-900790-08-7)、頻出古文単語250(ISBN 978-4-7961-1485-1)

左は酷いタイトルですが中身は素晴らしく、上で紹介した「α」以外はこれだけあれば十分といえるほどなのに、まなびやの生徒にはまったく人気がありません。以前紹介したネイティブの感覚で前置詞が使えるとどちらが最下位か、というくらい不人気です。覚える労力をどうやって最小化するか考え抜いてあり、力が付くこと間違いなしの内容なのですが。

写真中央は「DUO3」という単語帳の入門向けバージョンで、英検2級レベルだそうです。かなり工夫された作りで、内容もしっかりしており、単語1000に加えて熟語600を掲載しているのも気が利いていて「どうせやるならこれがいいんじゃないか」というスタンスでおすすめしています。右はこれだけ古文単語帳ですが、すべての生徒におすすめしている素晴らしい内容です。本当は古文も古語辞典をちゃんと使いながら勉強して欲しいところではありますが、この単語帳なら、辞書代わりに使ってしまってもそう悪くないでしょう。
2020.11.10 00:20 | 固定リンク | 教材の紹介
宮沢賢治の童話と詩集
2020.11.09
左から、新編 風の又三郎(ISBN 4-10-109204-4)(現行本はISBN 978-4101092041)、新編 銀河鉄道の夜(ISBN 978-4-10-109205-8)、注文の多い料理店(ISBN 978-4-10-109206-5)、ポラーノの広場(ISBN 4-10-109208-7)(現行本はISBN 978-4101092089)
 
宮沢賢治というのは不思議な人で、彼の童話はさらに奇妙です。好き嫌いは分かれますが、これを「嫌い」と知るだけでも、手に取った価値のある本です。

時代時代で、文学作品の価値とは無関係なところから、持ち上げられたり貶められたりといったことがあったとしても、宮沢賢治は(難しそうな言葉を使うことはあっても)難しいことをしないし書かない、という信頼さえ持つことができれば、彼の童話に強面なところはありません。

左から、宮沢賢治詩集(谷川編)(ISBN不明、現行本はISBN 978-4003107614)、宮沢賢治詩集(草野編)(ISBN不明、現行本はISBN 978-4101092034)

どちらも古本で買ったもので、岩波のもの(左)は「昭和二十五年十二月十五日 第一刷発行」、新潮のもの(右)は「昭和四十四年四月十日 発行」とあります。現行本がどうなっているのかわかりませんが、手元の岩波版は、仮名遣いや字体を勝手に変更しない編集で、安心して読めます。

-蛇足-
これは私の勝手な推測なのですが、宮沢賢治には「外国語を日本語で」読んでいたのではないかと思わせるところがあります。たとえば、
Dorothy lived in the midst of the great Kansas prairies, with Uncle Henry, who was a farmer, and Aunt Em, who was the farmer's wife.
The Wonderful Wizard of oz (L. Frank Baum) 第一章冒頭より

という英語があったとしましょう。普通はこれを

  1. Dorothy lived (in the midst (of the great Kansas prairies)), (with [Uncle Henry, (who was a farmer), and Aunt Em, (who was the farmer's wife)]).

  2. Dorothyは(the midst < the (great) Kansas prairiesに)([Uncle Henry <= a farmerとAunt Em <= the farmer's wife]とくっついて)生活していた。

  3. Dorothyは、大きなKansas平原の真ん中に、農夫のHenryおじさんと、その農夫の妻のEmおばさんと一緒に、住んでいた。

  4. ドロシーは、農夫のヘンリーおじさんと夫婦のエムおばさんと一緒に、おおきなカンザス平原の真ん中に住んでいた。

のように整理して読み、日本語に訳せと言われたのでない限り3番のところまでで解釈してしまいます。英語を読むことに慣れている人は2番くらいまで、毎日たくさんの英文を読んでいる人ならたいてい1番のままで読んでしまいます。

しかし宮沢賢治は「4番のところまで進めてから」読んでいたのではないか、というのが「外国語を日本語で」の意味です。根拠があってそう考えているわけではありませんが、彼が書いたものの調子だとか、いわゆる標準語を「外国語のようだ」と言っていたことなどから、どうもそういう気がしてなりません。

-関連記事-
図書貸出のお知らせ
2020.11.09 22:30 | 固定リンク | 本の紹介
高校入試駆け込み用のワーク
2020.11.01
きそもんシリーズ(教英出版)

高校受験用では珍しい「実戦的」なワークです。写真は英数だけですが5科目全部あり、理科と社会は「とりあえずこれだけは覚える」ことが整理されています。数学も少しムリヤリなところはありますがまずまずで、英語は前半の知識問題だけ使えば便利です。国語は必要ないと思いますが、5科目全部やったとしても1か月くらいあれば、多くの生徒が使い倒せるくらいのボリュームでしょう。

勉強を始めた時期が遅くスケジュールに余裕がない場合はとくに、解けない問題を何とかしようと頑張るよりも、わかる問題をどれだけ速く正確に解くかを追求した方が効果的なため、学力点300点満点のうち200点くらいを狙う生徒にとっても、このレベルの問題を全速力で「解き続けて」も間違えない自信をつけておくことは重要です。

高校入試 パターン別攻略、左から、数学(ISBN 978-4-410-15271-9)、理科(ISBN 978-4-410-15273-3)、英語(ISBN 978-4-410-15272-6)

高校数学の参考書「チャート式」で有名な出版社のワークで、英数理の3科目あります。普段から公言している通り、私はチャート式が大嫌いなので高校生には決して勧めませんが、高校受験用でかつ時期的に切羽詰っているなら「一夜漬けの大規模版」として有用です。ムリヤリ「最後まで全部」やる必要はあまりないものの、苦手な問題をみつけたときの精神的な動揺を抑えるためにも、受験の3か月くらい前までには手を付けた方が無難でしょう。

とくに理科はよくできており、高得点を狙う生徒は苦手がないか確認するために、そうでない生徒は稼げる問題を探すために使うと効果的でしょう。英語は平凡な内容ですが、英作文の問題数と読解問題のボリュームがけっこうあるので、全体としてはいいバランスのワークになっています。数学は、作図をちゃんと扱っていたり文章題を多くしたりと工夫されてはいるものの、目の前の問題を「ただ言われた通りに解く作業」になりがちなチャート式の悪癖が顔を出しているところもあり、力をつけるための勉強として選ぶなら使い方に注意が必要です。
2020.11.01 22:58 | 固定リンク | 教材の紹介

- CafeLog -