最高難度の英語の本
2022.03.13
左から、The End of the Tether(ISBN 9781534812697)、Heart of Darkness(ISBN 9781976775079)
ひとくちに「最高難度」とはいっても、人によってさまざまな解釈がありますが、現代英語で書かれた散文で私が「最高難度」に推すのはコンラッドです。
難しい言葉が多いだけの本は他にもありますが、コンラッドが一味違うのは、それぞれの言葉を「この表現にはこの言葉しかない」というレベルで的確に使っている点でしょう。反面、物語の中身というか、伝えている内容は大したものではなく、漱石なんかには「あそこまで凝ったことをやって中身はそれかよ」という趣旨の非難をされていますが、言葉遣いの巧みさをひたすら鑑賞するのが、この本を楽しめる読み方でしょう。また本の中身とは関係ありませんが、作者のコンラッドは英語のネイティブではなくポーランド人です。私もいち英語学習者として、驚愕と賞賛を禁じえません。
左のThe End of the Tetherは私が大学生のとき教科書になっていたもので、実物は前に手放して買い戻したのですが、単に話の筋を追うだけの読み方でも、英文科の学生が逃げ出すくらいの難しさです。実際、最初の数回で単位を諦めて、授業に出てこなくなった生徒が何人もいました。ひとつひとつの表現をしっかり楽しみながら読むには、その数倍の労力が必要です。
The Waste Land and Other Poems(ISBN 978-0-14-243731-5)
韻文部門はこれしかありません。泣く子も黙るTSエリオットです。
コンラッドは私も大学生のとき教科書として使いましたが、学部の(大学院生でない)生徒にエリオットを読ませようとする先生は、当時の英文科にはいませんでした。どうせわかりっこありません。卒業して20年くらい英語の勉強を続けていますが、今読んでもサッパリです。貸し出し対象図書ですが、中身がわからないからといって私に質問しても、助けにはなれません。これもどちらかといえば、本棚の見栄えのために置いてあるだけの本に近いでしょうか。いつか読みこなせるようになったらいいな、とは思っているのですが。
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The End of the Tether by Joseph Conrad@Gutenberg
The End of the Tether by Joseph Conrad@Gutenberg(朗読)
Heart of Darkness by Joseph Conrad@Gutenberg
Heart of Darkness by Joseph Conrad@Gutenberg(挿絵なし)
Heart of Darkness by Joseph Conrad@Gutenberg(朗読)
The Waste Land by T. S. Eliot@Gutenberg
The Waste Land by T. S. Eliot@Gutenberg(朗読)
日本コンラッド協会
日本T.S.エリオット協会
ひとくちに「最高難度」とはいっても、人によってさまざまな解釈がありますが、現代英語で書かれた散文で私が「最高難度」に推すのはコンラッドです。
難しい言葉が多いだけの本は他にもありますが、コンラッドが一味違うのは、それぞれの言葉を「この表現にはこの言葉しかない」というレベルで的確に使っている点でしょう。反面、物語の中身というか、伝えている内容は大したものではなく、漱石なんかには「あそこまで凝ったことをやって中身はそれかよ」という趣旨の非難をされていますが、言葉遣いの巧みさをひたすら鑑賞するのが、この本を楽しめる読み方でしょう。また本の中身とは関係ありませんが、作者のコンラッドは英語のネイティブではなくポーランド人です。私もいち英語学習者として、驚愕と賞賛を禁じえません。
左のThe End of the Tetherは私が大学生のとき教科書になっていたもので、実物は前に手放して買い戻したのですが、単に話の筋を追うだけの読み方でも、英文科の学生が逃げ出すくらいの難しさです。実際、最初の数回で単位を諦めて、授業に出てこなくなった生徒が何人もいました。ひとつひとつの表現をしっかり楽しみながら読むには、その数倍の労力が必要です。
The Waste Land and Other Poems(ISBN 978-0-14-243731-5)
韻文部門はこれしかありません。泣く子も黙るTSエリオットです。
コンラッドは私も大学生のとき教科書として使いましたが、学部の(大学院生でない)生徒にエリオットを読ませようとする先生は、当時の英文科にはいませんでした。どうせわかりっこありません。卒業して20年くらい英語の勉強を続けていますが、今読んでもサッパリです。貸し出し対象図書ですが、中身がわからないからといって私に質問しても、助けにはなれません。これもどちらかといえば、本棚の見栄えのために置いてあるだけの本に近いでしょうか。いつか読みこなせるようになったらいいな、とは思っているのですが。
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The End of the Tether by Joseph Conrad@Gutenberg
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The Waste Land by T. S. Eliot@Gutenberg
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取っ付きやすい翻訳文学
2022.02.22
シェイクスピア関連の解説書
2022.02.07
左上、右上、左下、右下の順に、シェイクスピアハンドブック(ISBN 4-385-35275-5)、エリザベス朝の世界像(ISBN 4-480-01367-9)、深読みシェイクスピア(ISBN 978-4-10-120471-0)、シェイクスピアの悲劇(ISBN不明、後の版ではISBN9784003226315とISBN 9784003226322)
解説書なんてなくてもシェイクスピアは楽しめますが、知ることわかることで広がる楽しみも間違いなくあります。また歴史的作品なので、上演された当時とは世間の常識が変わってしまっているところも多く、それを補う知識があるに越したことはありません。
シェイクスピアハンドブックは、訳者として活躍した福田恆存の監修で、全作品をあらすじつきで解説しているのが特徴です。多数の著者が執筆しており書き方もそれぞれですが、全体としては、次は何を読もうか観ようかと迷ったときの案内にしたり、読み終わった観終わった後に「さて学者の先生方はどこに注目したんだろう」と開いてみるのに適しているでしょう。「なるほどそうか」という記事もあれば「いやいや違うでしょう」という主張もあるでしょうが、そういう意見を読んでからまた観直し読み直すことで、きっと新しい発見があるはずです。高校生がスラスラ読めるほど簡単な内容ではありませんが、大学の授業ほどの難しさではありません。ページ数は少ないものの、シェイクスピアの詩(ソネット)も紹介されています。
エリザベス朝の世界像は、かなりコワモテの本で、作品の解説というよりは時代考証のまとめ本のような雰囲気です。執筆された1943年当時のイギリス人(のある学派の学者)がシェイクスピアを「どう解釈したがっていたか」という資料として貴重ではありますが、文学研究をする人以外には必読書とはならないでしょう。シェイクスピアの悲劇はさらに古い本で、1904年の初版です(訳書の底本は1926年の改訂第十八版)。訳書も1939年の初版で、字体も仮名遣いも当時のまま、横書きの日本語は右から左に読ませるという筋金入りですが、しかしこれは内容自体が面白く、講義をまとめた本とは思えないほど生き生きとしています。すでにシェイクスピアに親しんでいる人であれば
深読みシェイクスピアは、やはり訳者として有名な松岡和子先生の著書です。この本は解説書ではなくインタビューをまとめたもので、シェイクスピアを「訳す」こと「上演する」ことを中心に雑談も交えながら話が進みます。すでにシェイクスピアが好きで、原文も眺めてみたことはある読者には、楽しめる内容だと思います。
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解説書なんてなくてもシェイクスピアは楽しめますが、知ることわかることで広がる楽しみも間違いなくあります。また歴史的作品なので、上演された当時とは世間の常識が変わってしまっているところも多く、それを補う知識があるに越したことはありません。
シェイクスピアハンドブックは、訳者として活躍した福田恆存の監修で、全作品をあらすじつきで解説しているのが特徴です。多数の著者が執筆しており書き方もそれぞれですが、全体としては、次は何を読もうか観ようかと迷ったときの案内にしたり、読み終わった観終わった後に「さて学者の先生方はどこに注目したんだろう」と開いてみるのに適しているでしょう。「なるほどそうか」という記事もあれば「いやいや違うでしょう」という主張もあるでしょうが、そういう意見を読んでからまた観直し読み直すことで、きっと新しい発見があるはずです。高校生がスラスラ読めるほど簡単な内容ではありませんが、大学の授業ほどの難しさではありません。ページ数は少ないものの、シェイクスピアの詩(ソネット)も紹介されています。
エリザベス朝の世界像は、かなりコワモテの本で、作品の解説というよりは時代考証のまとめ本のような雰囲気です。執筆された1943年当時のイギリス人(のある学派の学者)がシェイクスピアを「どう解釈したがっていたか」という資料として貴重ではありますが、文学研究をする人以外には必読書とはならないでしょう。シェイクスピアの悲劇はさらに古い本で、1904年の初版です(訳書の底本は1926年の改訂第十八版)。訳書も1939年の初版で、字体も仮名遣いも当時のまま、横書きの日本語は右から左に読ませるという筋金入りですが、しかしこれは内容自体が面白く、講義をまとめた本とは思えないほど生き生きとしています。すでにシェイクスピアに親しんでいる人であれば
そして俳優が、リアの最後の語調と身振りと顔付きとの中に、堪えられない歓喜を表現しようと試みない時、テキストの真意を誤解していることは、疑問の余地がないと思われる。(仮名遣いと字体を改め、傍点を強調表示に改めた)という一文を読んだだけで、著者の明晰さと熱意を汲み取れることでしょう。
深読みシェイクスピアは、やはり訳者として有名な松岡和子先生の著書です。この本は解説書ではなくインタビューをまとめたもので、シェイクスピアを「訳す」こと「上演する」ことを中心に雑談も交えながら話が進みます。すでにシェイクスピアが好きで、原文も眺めてみたことはある読者には、楽しめる内容だと思います。
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ピーターラビット シリーズ
2022.01.05
The Tale of Peter Rabbit (ISBN 978-0-7232-4770-8)
日本で「ピーターラビットのおはなし」として親しまれている本の原著です。いろいろな版が出版されており、まなびやの蔵書にあるのはFrederick Warneのカラー刷りハードカバーです。写真では大きさがわかりませんが、本来の「子供用サイズ」で、閉じた状態で縦14.5cmの横11cmくらいでした。内容はもちろん小さい子供向けですが、英語で読まないと楽しめない要素が多く含まれるので、中学生くらいになってから挑戦するのがいいかなと思います。文学研究の対象としても面白いシリーズで、探してみたところ三重大学の学生さんが卒論のテーマとして取り上げていました。
The Tale of Squirrel Nutkin (ISBN 9798546348298)
こちらは2作目の「リスのナトキンのおはなし」の原著です。中身は普通なのですが、縦23cm横15cm(正確には9×6インチ)のアメリカ式ペーパーバックで、中の挿絵は粗い画質のモノクロ印刷です。出版元の表記がなく、ISBNも変で、問い合わせ先が日本のAmazonになっているので、著作権が切れた作品をただコピーして綴じただけの本なのかもしれません。知名度ではピーターラビットに敵いませんが、私はこの話の方が好きです。
著者のビアトリクス・ポターに関する研究もさかんで、マーガレット・レインの「The Magic Years of Beatrix Potter」(猪熊訳「ビアトリクス・ポターの生涯」ISBN 978-4834001280)やジュディ・テイラーの「Beatrix Potter: Artist, Storyteller, and Countrywoman」(吉田訳「ビアトリクス・ポター」ISBN 978-4834025316)といった評伝が出版されているほか、The Beatrix Potter Society(ビアトリクス・ポター協会)という学術団体まで作られました。日本では埼玉県こども動物自然公園内に大東文化大学の資料館があります。
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ピーターラビット公式サイト
The Beatrix Potter Society
Books: Beatrix Potter (sorted by popularity)@gutenberg
Great Big Treasury of Beatrix Potter by Beatrix Potter@gutenberg
ビアトリクス・ポター資料館@大東文化大学
日本で「ピーターラビットのおはなし」として親しまれている本の原著です。いろいろな版が出版されており、まなびやの蔵書にあるのはFrederick Warneのカラー刷りハードカバーです。写真では大きさがわかりませんが、本来の「子供用サイズ」で、閉じた状態で縦14.5cmの横11cmくらいでした。内容はもちろん小さい子供向けですが、英語で読まないと楽しめない要素が多く含まれるので、中学生くらいになってから挑戦するのがいいかなと思います。文学研究の対象としても面白いシリーズで、探してみたところ三重大学の学生さんが卒論のテーマとして取り上げていました。
The Tale of Squirrel Nutkin (ISBN 9798546348298)
こちらは2作目の「リスのナトキンのおはなし」の原著です。中身は普通なのですが、縦23cm横15cm(正確には9×6インチ)のアメリカ式ペーパーバックで、中の挿絵は粗い画質のモノクロ印刷です。出版元の表記がなく、ISBNも変で、問い合わせ先が日本のAmazonになっているので、著作権が切れた作品をただコピーして綴じただけの本なのかもしれません。知名度ではピーターラビットに敵いませんが、私はこの話の方が好きです。
著者のビアトリクス・ポターに関する研究もさかんで、マーガレット・レインの「The Magic Years of Beatrix Potter」(猪熊訳「ビアトリクス・ポターの生涯」ISBN 978-4834001280)やジュディ・テイラーの「Beatrix Potter: Artist, Storyteller, and Countrywoman」(吉田訳「ビアトリクス・ポター」ISBN 978-4834025316)といった評伝が出版されているほか、The Beatrix Potter Society(ビアトリクス・ポター協会)という学術団体まで作られました。日本では埼玉県こども動物自然公園内に大東文化大学の資料館があります。
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The Beatrix Potter Society
Books: Beatrix Potter (sorted by popularity)@gutenberg
Great Big Treasury of Beatrix Potter by Beatrix Potter@gutenberg
ビアトリクス・ポター資料館@大東文化大学
ハムレット
2021.12.14
左上、右上、左下、右下の順に、Hamlet (The Oxford Shakespeare、2008年復刊本、1987初版)(ISBN 978-0-19-953581-1)、Hamlet (Oxford School Shakespeare、2007年改訂本)(ISBN 978-019-839906-3)、Hamlet (Cambridge School Shakespeare、Third edition)(ISBN 978-1-107-61548-9)、Hamlet, Prince of Denmark (The new cambridge shakespeare、Third edition)(ISBN 978-1-316-60673-5)
左から、ハムレット(福田訳)(ISBN 978-4-10-202003-6)、ハムレット(松岡訳)(ISBN 4-480-03301-7)、ハムレット(小田島訳)(ISBN 4-560-07023-7)、新訳 ハムレット(河合訳)(ISBN 978-4-04-210614-2)、ハムレットQ1(安西訳)(ISBN 978-4-334-75201-9)
シェイクスピアの紹介を始めたからには、触れないで済ませるわけにはいかない作品ですが、中身を解説するのは恐れ多いので、中身でないところについて書きます。中身の解説もしないのに写真の本の多さはいったい何なのか、という疑問はもっともですが、この「豊富さ」もハムレットの重要な特徴のひとつです。
イギリスにはオックスフォードとケンブリッジという名門大学があり、互いに対抗意識が強く、ことあるごとに張り合っていることで知られていますが、日本と違い出版分野でも両大学の出版局が大きな役割を果たしています。いっぽう、シェイクスピアというのはイギリスで一番有名な作家で、ハムレットはその一番有名な作品ですから、文学分野の出版物としてはもっとも大きな注目を集める看板商品になります。すると当然、オックスフォード大学出版局やケンブリッジ大学出版局が発行する「ハムレット」には、それぞれの英知と情熱と研究成果が惜しみなく注がれることになります。
ただし、オックスフォード版や新ケンブリッジ版のハムレットを読むのは、英文科の大学生にとっても簡単なことではありません。上演のための本であることを優先している新ケンブリッジ版に対して、オックスフォード版は文学研究を優先した構成で、読み進めるのはさらに大変です。最所先生の本を紹介した記事で「すぐには理解できなくても最高のものに触れてみよう」という話をしましたが、最初がこの2冊ではさすがに手ごわすぎるので、十二夜の紹介記事で触れたオックスフォード・スクール・シェイクスピアか、解説と本文が見開きで並んだケンブリッジ・スクール・シェイクスピアの方が無難です。
こちらがそのスクール・シェイクスピアの中身です。
左のオックスフォード版は徹底的な語注と視覚的なイメージを補うイラストが特徴です。単なる中高生向けバージョンを超えて、当時のビジュアルの資料として一級品のものが掲載されています。ケンブリッジ版は写真も含めカラー印刷されており、上演を強く意識した作りです。読者にテーマを与えて考えさせる(または話し合わせる)コーナーも豊富ですが、それでいて「勉強っぽい」感じになっていないのが巧妙です。どちらの本も、ひとつのジャンルの中で競い合いながら独自の方向性を持っていて、どちらも負けることなくそれぞれの主張を充実させ続けているのは、本当にお見事です。
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シェイクスピア関連の蔵書一覧
-参考外部リンク-
オックスフォード大学出版局
ケンブリッジ大学出版局
左から、ハムレット(福田訳)(ISBN 978-4-10-202003-6)、ハムレット(松岡訳)(ISBN 4-480-03301-7)、ハムレット(小田島訳)(ISBN 4-560-07023-7)、新訳 ハムレット(河合訳)(ISBN 978-4-04-210614-2)、ハムレットQ1(安西訳)(ISBN 978-4-334-75201-9)
シェイクスピアの紹介を始めたからには、触れないで済ませるわけにはいかない作品ですが、中身を解説するのは恐れ多いので、中身でないところについて書きます。中身の解説もしないのに写真の本の多さはいったい何なのか、という疑問はもっともですが、この「豊富さ」もハムレットの重要な特徴のひとつです。
イギリスにはオックスフォードとケンブリッジという名門大学があり、互いに対抗意識が強く、ことあるごとに張り合っていることで知られていますが、日本と違い出版分野でも両大学の出版局が大きな役割を果たしています。いっぽう、シェイクスピアというのはイギリスで一番有名な作家で、ハムレットはその一番有名な作品ですから、文学分野の出版物としてはもっとも大きな注目を集める看板商品になります。すると当然、オックスフォード大学出版局やケンブリッジ大学出版局が発行する「ハムレット」には、それぞれの英知と情熱と研究成果が惜しみなく注がれることになります。
ただし、オックスフォード版や新ケンブリッジ版のハムレットを読むのは、英文科の大学生にとっても簡単なことではありません。上演のための本であることを優先している新ケンブリッジ版に対して、オックスフォード版は文学研究を優先した構成で、読み進めるのはさらに大変です。最所先生の本を紹介した記事で「すぐには理解できなくても最高のものに触れてみよう」という話をしましたが、最初がこの2冊ではさすがに手ごわすぎるので、十二夜の紹介記事で触れたオックスフォード・スクール・シェイクスピアか、解説と本文が見開きで並んだケンブリッジ・スクール・シェイクスピアの方が無難です。
こちらがそのスクール・シェイクスピアの中身です。
左のオックスフォード版は徹底的な語注と視覚的なイメージを補うイラストが特徴です。単なる中高生向けバージョンを超えて、当時のビジュアルの資料として一級品のものが掲載されています。ケンブリッジ版は写真も含めカラー印刷されており、上演を強く意識した作りです。読者にテーマを与えて考えさせる(または話し合わせる)コーナーも豊富ですが、それでいて「勉強っぽい」感じになっていないのが巧妙です。どちらの本も、ひとつのジャンルの中で競い合いながら独自の方向性を持っていて、どちらも負けることなくそれぞれの主張を充実させ続けているのは、本当にお見事です。
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オックスフォード大学出版局
ケンブリッジ大学出版局
高橋和夫の3冊
2021.11.23
左から、アラブとイスラエル(ISBN 4-06-149085-0)、イスラム国の野望(ISBN 978-4-344-98370-0)
すでに何度か紹介している高橋先生の著書です。
左は1992年の初版で少し古い本ですが、97年の第5刷で少し修正された後のものです。パレスチナ問題を中心とした中東情勢の基礎知識を、惚れ惚れするような手際で解説しています。この著者は「複雑な話から本当に必要な骨組みの情報だけ取り出して説明する」ことに驚くべき才能を発揮する人ですが、この本のとくに第一章では、その手腕が存分に発揮されており、よくできた文学作品を読んでいるときに似た感動さえ誘います。内容が古くなってもその価値は衰えず、むしろ歴史的著述として遺すべき名著でしょう。
右は2015年初版で、入門向けのとても「やさしい」本です。左の本より字も大きくなりましたし、あとがきに
中東から世界が崩れる(ISBN 978-4-14-088490-4)
恐ろしげなタイトルですが、内容にはどことなく希望的な雰囲気があります。中東を語っているときの高橋和夫は、抜群の冴えと切れ味を発揮しますが、アメリカを語りだすと、どこか「私情」を抑え切れないようなところが見え隠れします。後知恵で意地悪な言い方をしてしまえば、この本が出版された2016年なかば、当時のドナルド・トランプ候補が大統領になる少し前には、その感情が「期待」の側に少し振れていて、中東をテーマにしているはずのこの本にも、いくらか流れ込んだのかもしれません。
私の邪推はさておき、この本では「基盤(インフラ)」とくに「知的インフラ」の重要性が繰り返し強調されています。一面的には
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トルコと中東の本
放送大学の授業と印刷教材
すでに何度か紹介している高橋先生の著書です。
左は1992年の初版で少し古い本ですが、97年の第5刷で少し修正された後のものです。パレスチナ問題を中心とした中東情勢の基礎知識を、惚れ惚れするような手際で解説しています。この著者は「複雑な話から本当に必要な骨組みの情報だけ取り出して説明する」ことに驚くべき才能を発揮する人ですが、この本のとくに第一章では、その手腕が存分に発揮されており、よくできた文学作品を読んでいるときに似た感動さえ誘います。内容が古くなってもその価値は衰えず、むしろ歴史的著述として遺すべき名著でしょう。
右は2015年初版で、入門向けのとても「やさしい」本です。左の本より字も大きくなりましたし、あとがきに
「わかりやすく、もっとわかりやすく、さらにもっとわかりやすく」が本書を貫くモットーです。とあるその通りに、どこまでも噛み砕いた親切な解説ばかりです。しかしただ一点、読者に「考える努力を放棄してもいいよ」とささやくような「やさしさ」だけは持ち合わせていない本です。高校生にも十分読める、読めて欲しい内容ですが、もしそれが叶わないなら、まずは大人にこういう本を読んで欲しい、と願わずにいられません。
中東から世界が崩れる(ISBN 978-4-14-088490-4)
恐ろしげなタイトルですが、内容にはどことなく希望的な雰囲気があります。中東を語っているときの高橋和夫は、抜群の冴えと切れ味を発揮しますが、アメリカを語りだすと、どこか「私情」を抑え切れないようなところが見え隠れします。後知恵で意地悪な言い方をしてしまえば、この本が出版された2016年なかば、当時のドナルド・トランプ候補が大統領になる少し前には、その感情が「期待」の側に少し振れていて、中東をテーマにしているはずのこの本にも、いくらか流れ込んだのかもしれません。
私の邪推はさておき、この本では「基盤(インフラ)」とくに「知的インフラ」の重要性が繰り返し強調されています。一面的には
研究者が食べていけるような環境をつくらなければ、いざという時に中東の諸問題を分析する人員が不足する。ということでしょうが、枝葉ではなく根や幹を見れば結局、世の中の人ひとりひとりの「興味」「関心」「知る努力」の質と量にかかっているように思えます。
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トルコと中東の本
放送大学の授業と印刷教材
ポーターの3冊
2021.11.09
左から、少女パレアナ(村岡訳)(ISBN4 04-221201-8)、パレアナの青春(村岡訳)(ISBN4 04-221202-6)
何度も訳されている本なので邦題も「パレアナ」「パレアナ物語」「少女パレアナ」「しあわせなポリアンナ」「少女ポリアンナ」など複数あります。表紙はフジテレビがアニメ化したときのシーンらしく、登場人物の年齢設定等が原作と食い違っているそうです。
これは大人が「主役」になって子供に読み聞かせる本です。大人が一人で読んでも、その魅力は半分も楽しめないでしょう。ちょうど前回触れたように、ひとつの出来事でも、見る人によって「意味」や「解釈」が異なります。子供から見たこの物語と、大人から見たこの物語は、大きく違っているはずです。そのギャップを相手に大人が悪戦苦闘をする、というのがこの本の醍醐味でしょう。児童文学として冷静に評価を下してしまえば、わざとらしさと安易な成功談が目に付いて、よくできた物語ではありませんが、子供と向き合うにはまず自分が努力しなければならない、ということを大人に教えてくれる本です。
写真の本はどちらも、昭和三十七年(1962年)初版の昭和六十一年(1986年)改版で、表現もかなり古いものです。たとえばパレアナの最初の台詞にしても、
右の本は続編で、最初の話にあった文学作品としての欠点を、おそらく著者が反省をして、あれこれと建て直しをしたような印象です。この著者にとってパレアナは、出版されたものだけでも6作目の小説らしいのですが、面白いことに書き振りがどんどん上達していきます。続編の最後などは、シェイクスピア風のありきたりな筋ではありますが、巧みです。こちらは子供に読み聞かせるのにはちょっと無理がありそうなので、最初の本を読み聞かせてもらった子供が自分で本を読めるようになった頃に、あの本には続きがあったんだよと紹介してみるのがよいでしょうか。この2冊と似た「ゲーム」のモチーフが、イタリアの映画La vita è bella(ライフ・イズ・ビューティフル)に出てきますが、関連があるのかどうかわかりませんでした。
スウ姉さん(村岡訳)(ISBN 978-4-309-46395-7)
訳者の村岡さんはあとがきに「出世作である『パレアナ』よりこの『スウ姉さん』のほうに数倍も強く心を惹かれました」と書いています。パレアナのときは著者の欠点に見えた強引さを残しつつ、しかし見事に書き上げられた物語です。初めてこの本を読み終えたばかりの人に言っても、すぐには納得してもらえないかもしれませんが、私が注意して欲しいのは、
-余談-
ヨーロッパでは長い間、読み書きができる父親は、子供に本を読み聞かせるのが重要な仕事だったそうです。パレアナが書かれた1913年当時、アメリカでも音読の伝統が廃れつつありましたが、子供相手の朗読は、現代日本人が考えるよりもずっと身近なものだったに違いありません。学術的な分析については下の外部リンクを参照してください。
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Pollyanna by Eleanor H. Porter@gutenberg
Pollyanna by Eleanor H. Porter(朗読)@gutenberg
Pollyanna Grows Up by Eleanor H. Porter@gutenberg
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何度も訳されている本なので邦題も「パレアナ」「パレアナ物語」「少女パレアナ」「しあわせなポリアンナ」「少女ポリアンナ」など複数あります。表紙はフジテレビがアニメ化したときのシーンらしく、登場人物の年齢設定等が原作と食い違っているそうです。
これは大人が「主役」になって子供に読み聞かせる本です。大人が一人で読んでも、その魅力は半分も楽しめないでしょう。ちょうど前回触れたように、ひとつの出来事でも、見る人によって「意味」や「解釈」が異なります。子供から見たこの物語と、大人から見たこの物語は、大きく違っているはずです。そのギャップを相手に大人が悪戦苦闘をする、というのがこの本の醍醐味でしょう。児童文学として冷静に評価を下してしまえば、わざとらしさと安易な成功談が目に付いて、よくできた物語ではありませんが、子供と向き合うにはまず自分が努力しなければならない、ということを大人に教えてくれる本です。
写真の本はどちらも、昭和三十七年(1962年)初版の昭和六十一年(1986年)改版で、表現もかなり古いものです。たとえばパレアナの最初の台詞にしても、
「ああうれしい、おめにかかれてうれしい、うれしくてたまりませんわ。あたしはパレアナです。お迎えにきてくだすってうれしいわ。きてくださるだろうとは思っていましたが」といきなり強烈です。これを声に出して読むのは、大人にとってかなり骨が折れそうですが、しかしこの古風な、今となってはどこか浮世離れした日本語は、物語の調子によく合います。というのは、この話の舞台が現代日本とはかなり違っているからです。見知らぬ世界のお話が風変わりな日本語で語られるのを、子供が喜ぶか恐れるかわかりませんが、きっとよい経験にはなるでしょう。
右の本は続編で、最初の話にあった文学作品としての欠点を、おそらく著者が反省をして、あれこれと建て直しをしたような印象です。この著者にとってパレアナは、出版されたものだけでも6作目の小説らしいのですが、面白いことに書き振りがどんどん上達していきます。続編の最後などは、シェイクスピア風のありきたりな筋ではありますが、巧みです。こちらは子供に読み聞かせるのにはちょっと無理がありそうなので、最初の本を読み聞かせてもらった子供が自分で本を読めるようになった頃に、あの本には続きがあったんだよと紹介してみるのがよいでしょうか。この2冊と似た「ゲーム」のモチーフが、イタリアの映画La vita è bella(ライフ・イズ・ビューティフル)に出てきますが、関連があるのかどうかわかりませんでした。
スウ姉さん(村岡訳)(ISBN 978-4-309-46395-7)
訳者の村岡さんはあとがきに「出世作である『パレアナ』よりこの『スウ姉さん』のほうに数倍も強く心を惹かれました」と書いています。パレアナのときは著者の欠点に見えた強引さを残しつつ、しかし見事に書き上げられた物語です。初めてこの本を読み終えたばかりの人に言っても、すぐには納得してもらえないかもしれませんが、私が注意して欲しいのは、
スウ姉さんの視点を離れてその人だけ見たとき「ゴルドン(メイでも構いません)がどんなに立派な人物か」ということです。このことに気付いて読み返せば、物語の空気がガラリと変わるでしょう。まだ読んでいない読者のために一応、白文字で書いておきましたので、上の隙間を選択して色を反転させて読んでください。対象年齢がまた少し上がっていますが、高校生なら十分読めるでしょう。もちろん大人が読んでも楽しめます。
-余談-
ヨーロッパでは長い間、読み書きができる父親は、子供に本を読み聞かせるのが重要な仕事だったそうです。パレアナが書かれた1913年当時、アメリカでも音読の伝統が廃れつつありましたが、子供相手の朗読は、現代日本人が考えるよりもずっと身近なものだったに違いありません。学術的な分析については下の外部リンクを参照してください。
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見栄えがする本
2021.10.29
左から、The Story of Beowulf(ISBN 9798652393120)、The Canterbury Tales(ISBN 978-0-00-744944-6)、谷崎潤一郎訳 源氏物語 全 (ISBN4 12-001540-8)
私は本棚に本を並べるのが趣味なので、ロクに中身は読んでいない本もけっこう持っており、その代表が上の3冊です。
右の源氏物語は谷崎による現代語訳で、3回訳されたうち一番新しい「新々訳」と呼ばれているものです。古本で安かったのを見て衝動買いしました。こういう大きい本があると、本棚の見た目に迫力が出ます。真ん中はイギリス古典の代表格、の現代英語訳で、イギリスの高校生はおそらく「古文」の授業でこの本の原文を習っているのでしょう。左はもっと古いイギリスの古典の現代英語訳、のさらにダイジェスト版です。全文の現代英語訳はトールキンが有名で、新しい版が2002年にBeowulf and the Criticsというタイトルで出版されています。
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私は本棚に本を並べるのが趣味なので、ロクに中身は読んでいない本もけっこう持っており、その代表が上の3冊です。
右の源氏物語は谷崎による現代語訳で、3回訳されたうち一番新しい「新々訳」と呼ばれているものです。古本で安かったのを見て衝動買いしました。こういう大きい本があると、本棚の見た目に迫力が出ます。真ん中はイギリス古典の代表格、の現代英語訳で、イギリスの高校生はおそらく「古文」の授業でこの本の原文を習っているのでしょう。左はもっと古いイギリスの古典の現代英語訳、のさらにダイジェスト版です。全文の現代英語訳はトールキンが有名で、新しい版が2002年にBeowulf and the Criticsというタイトルで出版されています。
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私の幸福論
2021.10.22
私の幸福論(ISBN 978-4-480-03416-8)
著者の福田恆存はシェイクスピアの翻訳が有名で、以前ヴェニスの商人を紹介したときに訳者として取り上げました。評論家や劇作家としても多くの著書があります。
「あとがき」から抜粋すると、
話を戻しましょう。これはそんなに難しい本ではありません。下で解説しているように、もともと高校を卒業したくらいの人をメインターゲットにしていた雑誌の連載ですし、そういう人たちに実際に読まれて、現在も文庫本として生き残っているわけです。さすがに古い本なので、言い回しにも考え方にも古臭いところはあり、この本が言っていることを「理解したくない」人には格好の攻撃材料になるかもしれませんが、しかし実際に「難しい本」ではありません。ちょうど1/2a + 1/3a = 5/6aを「理解したがらない」中学生と同じで、わからないのはたいていの場合、難しいからではなく「わかりたくない」からです。本は逃げませんから、そういうときにはさっさと見切りをつけて、いつかわかりたくなったときにまた読んでみればいいだけのことです。
なんだかんだで結局クドクドしてしまいましたが、女性にも男性にも、大人にも読んで欲しい一冊です。
-少し解説-
講談社の「若い女性」は「未婚の社会人女性」を対象とするファッション雑誌で、昭和30年(1965年)の創刊から1982年の休刊まで27年間刊行されました。グーグルで画像検索すると、いつごろのものかはわかりませんが、表紙の写真がいくつか見つかります。ここでいう「未婚の社会人」とは「高校を卒業してから結婚するまで」の期間、具体的には18~23歳くらいを指します。当時の習慣や意識が現在とは異なることに注意してください。昭和30年に18~23歳の人は、昭和7~12年(1932~1937年)生まれです。
念のため数字も示しておきます。内閣府が公開している平成18年版 青少年白書(概要)の第1部 第1章に掲載された第3図によると、昭和30年当時の女性の「平均初婚年齢」は23.8歳でした。女性の進学率は、しっかりと調べたわけではありませんがおよそ、同じ昭和30年の数字で、高校進学率が50%弱、大学進学率が5%くらいだったようです。おそらくですが、当時ファッション雑誌を読んでいたのはかなり先進的な層だったろうと想像でき、典型的には「高校を卒業した都会の社会人女性」が想定されていたのでしょう。
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著者の福田恆存はシェイクスピアの翻訳が有名で、以前ヴェニスの商人を紹介したときに訳者として取り上げました。評論家や劇作家としても多くの著書があります。
「あとがき」から抜粋すると、
この書は「まえがき」の部分を含めすべて昭和三十年から翌三十一年にわたり、講談社の「若い女性」という雑誌に「幸福への手帖」という題のもとに連載したもので、その後三十一年末、新潮社より題も同じく「幸福への手帖」として一冊の単行本にまとめられて出版し、当時二三度版を重ねたまま絶版同様になっていたものの、加筆版(1979年高木書房)のさらに復刻版(1998年筑摩書房)です。内容については、私がクドクド説明するより、巻末にある中野翠さんの「解説」を引用した方が早そうです。
『私の幸福論』というタイトル、説教調と言えなくもない真面目な文体……。人生論の嫌いな私だ。もし私が福田恆存の名前を知らなかったとしたら……この本を手にする気も起きなかったのではないだろうか。(略)私は長い間「教養」という言葉になじめなかった。世間ではどうもこの言葉を「物識り」とか「おけいこごとに熱心な人」とかのニュアンスで使っている様子だったからだ。私は福田恆存によって初めて「教養」という言葉を美しいものとして感じたのだ。私も翻訳家としての福田恆存を先に知り、こんな鮮やかな文章を書く人の評論はどんなものだろう、という興味で読んだ本なので、シェイクスピアの翻訳を先に読んでみるのもよいかもしれません。
話を戻しましょう。これはそんなに難しい本ではありません。下で解説しているように、もともと高校を卒業したくらいの人をメインターゲットにしていた雑誌の連載ですし、そういう人たちに実際に読まれて、現在も文庫本として生き残っているわけです。さすがに古い本なので、言い回しにも考え方にも古臭いところはあり、この本が言っていることを「理解したくない」人には格好の攻撃材料になるかもしれませんが、しかし実際に「難しい本」ではありません。ちょうど1/2a + 1/3a = 5/6aを「理解したがらない」中学生と同じで、わからないのはたいていの場合、難しいからではなく「わかりたくない」からです。本は逃げませんから、そういうときにはさっさと見切りをつけて、いつかわかりたくなったときにまた読んでみればいいだけのことです。
なんだかんだで結局クドクドしてしまいましたが、女性にも男性にも、大人にも読んで欲しい一冊です。
-少し解説-
講談社の「若い女性」は「未婚の社会人女性」を対象とするファッション雑誌で、昭和30年(1965年)の創刊から1982年の休刊まで27年間刊行されました。グーグルで画像検索すると、いつごろのものかはわかりませんが、表紙の写真がいくつか見つかります。ここでいう「未婚の社会人」とは「高校を卒業してから結婚するまで」の期間、具体的には18~23歳くらいを指します。当時の習慣や意識が現在とは異なることに注意してください。昭和30年に18~23歳の人は、昭和7~12年(1932~1937年)生まれです。
念のため数字も示しておきます。内閣府が公開している平成18年版 青少年白書(概要)の第1部 第1章に掲載された第3図によると、昭和30年当時の女性の「平均初婚年齢」は23.8歳でした。女性の進学率は、しっかりと調べたわけではありませんがおよそ、同じ昭和30年の数字で、高校進学率が50%弱、大学進学率が5%くらいだったようです。おそらくですが、当時ファッション雑誌を読んでいたのはかなり先進的な層だったろうと想像でき、典型的には「高校を卒業した都会の社会人女性」が想定されていたのでしょう。
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ライラの冒険
2021.10.05
左から、黄金の羅針盤 上(ISBN 978-4-10-202411-9)、黄金の羅針盤 下(ISBN 978-4-10-202412-6)、神秘の短剣 上(ISBN 978-4-10-202413-3)、神秘の短剣 下(ISBN 978-4-10-202414-0)、琥珀の望遠鏡 上(ISBN 978-4-10-202415-7)、琥珀の望遠鏡 下(ISBN 978-4-10-202416-4)
続きもので、英語版のシリーズ名は「His Dark Materials」といいます。
実は正直なところ、私にはどこがいいのかサッパリわからない本です。カーネギー賞、ウィットブレッド賞(現コスタ賞)、ガーディアン賞と輝かしい受賞歴があり、BBCとHBOが製作したテレビドラマ「ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤」も評判がいいらしいので、きっと素晴らしい作品なのでしょうが、私にはまったくよさがわかりません。以前紹介したナルニア国物語と対にして言及されることが多い作品なので、自分の趣味を押し付けたいだけで本を紹介しているわけではないぞという「公平さアピール」のため、隣合わせにして本棚に置いてはありますが、私自身は100ページも読まないうちに放り出した本です。
だいたい、一人の人が100の「よいもの」に出会ったとして、そのうち「これはいいな」と気付けるものが4か5もあれば立派なもので、実は中身のないものを「よい」と錯覚している数の方が多いのが普通です。本を読むことに限らず何か新しい経験をしようというときに、肩肘を張った考えが邪魔をしてしまうことはよくあることですが、もっと気楽にやろうよと呼びかけるにはまず自分からということで、いちばんわからない本を紹介してみました。
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ナルニア国物語
続きもので、英語版のシリーズ名は「His Dark Materials」といいます。
実は正直なところ、私にはどこがいいのかサッパリわからない本です。カーネギー賞、ウィットブレッド賞(現コスタ賞)、ガーディアン賞と輝かしい受賞歴があり、BBCとHBOが製作したテレビドラマ「ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤」も評判がいいらしいので、きっと素晴らしい作品なのでしょうが、私にはまったくよさがわかりません。以前紹介したナルニア国物語と対にして言及されることが多い作品なので、自分の趣味を押し付けたいだけで本を紹介しているわけではないぞという「公平さアピール」のため、隣合わせにして本棚に置いてはありますが、私自身は100ページも読まないうちに放り出した本です。
だいたい、一人の人が100の「よいもの」に出会ったとして、そのうち「これはいいな」と気付けるものが4か5もあれば立派なもので、実は中身のないものを「よい」と錯覚している数の方が多いのが普通です。本を読むことに限らず何か新しい経験をしようというときに、肩肘を張った考えが邪魔をしてしまうことはよくあることですが、もっと気楽にやろうよと呼びかけるにはまず自分からということで、いちばんわからない本を紹介してみました。
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