ハムレット
2021.12.14
左上、右上、左下、右下の順に、Hamlet (The Oxford Shakespeare、2008年復刊本、1987初版)(ISBN 978-0-19-953581-1)、Hamlet (Oxford School Shakespeare、2007年改訂本)(ISBN 978-019-839906-3)、Hamlet (Cambridge School Shakespeare、Third edition)(ISBN 978-1-107-61548-9)、Hamlet, Prince of Denmark (The new cambridge shakespeare、Third edition)(ISBN 978-1-316-60673-5)
 
左から、ハムレット(福田訳)(ISBN 978-4-10-202003-6)、ハムレット(松岡訳)(ISBN 4-480-03301-7)、ハムレット(小田島訳)(ISBN 4-560-07023-7)、新訳 ハムレット(河合訳)(ISBN 978-4-04-210614-2)、ハムレットQ1(安西訳)(ISBN 978-4-334-75201-9)
 
シェイクスピアの紹介を始めたからには、触れないで済ませるわけにはいかない作品ですが、中身を解説するのは恐れ多いので、中身でないところについて書きます。中身の解説もしないのに写真の本の多さはいったい何なのか、という疑問はもっともですが、この「豊富さ」もハムレットの重要な特徴のひとつです。

イギリスにはオックスフォードとケンブリッジという名門大学があり、互いに対抗意識が強く、ことあるごとに張り合っていることで知られていますが、日本と違い出版分野でも両大学の出版局が大きな役割を果たしています。いっぽう、シェイクスピアというのはイギリスで一番有名な作家で、ハムレットはその一番有名な作品ですから、文学分野の出版物としてはもっとも大きな注目を集める看板商品になります。すると当然、オックスフォード大学出版局やケンブリッジ大学出版局が発行する「ハムレット」には、それぞれの英知と情熱と研究成果が惜しみなく注がれることになります。

ただし、オックスフォード版や新ケンブリッジ版のハムレットを読むのは、英文科の大学生にとっても簡単なことではありません。上演のための本であることを優先している新ケンブリッジ版に対して、オックスフォード版は文学研究を優先した構成で、読み進めるのはさらに大変です。最所先生の本を紹介した記事で「すぐには理解できなくても最高のものに触れてみよう」という話をしましたが、最初がこの2冊ではさすがに手ごわすぎるので、十二夜の紹介記事で触れたオックスフォード・スクール・シェイクスピアか、解説と本文が見開きで並んだケンブリッジ・スクール・シェイクスピアの方が無難です。

こちらがそのスクール・シェイクスピアの中身です。
 
左のオックスフォード版は徹底的な語注と視覚的なイメージを補うイラストが特徴です。単なる中高生向けバージョンを超えて、当時のビジュアルの資料として一級品のものが掲載されています。ケンブリッジ版は写真も含めカラー印刷されており、上演を強く意識した作りです。読者にテーマを与えて考えさせる(または話し合わせる)コーナーも豊富ですが、それでいて「勉強っぽい」感じになっていないのが巧妙です。どちらの本も、ひとつのジャンルの中で競い合いながら独自の方向性を持っていて、どちらも負けることなくそれぞれの主張を充実させ続けているのは、本当にお見事です。

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シェイクスピア関連の蔵書一覧
-参考外部リンク-
オックスフォード大学出版局
ケンブリッジ大学出版局
2021.12.14 22:06 | 固定リンク | 本の紹介

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