ロビンソン・クルーソーとガリバー旅行記
2021.09.27
どちらも、要約版がいわゆる「少年文学」の代表作のようになっていますが、原作はなかなかの曲者です。

ロビンソン漂流記(ISBN 978-4-10-201701-2)

原著が出版されたのは1719年で、大雑把に言えば「大航海時代が終わり産業革命が始まる前」くらい、直前10~20年くらいのヨーロッパの情勢で言うと、イングランドとスコットランドが合同してグレートブリテン王国が成立、スペイン継承戦争と四国同盟戦争でスペインの衰退が加速、ドイツではプロイセン王国が成立した頃です。

もちろん、小学生が要約版の「ロビンソン・クルーソー」を読むときには、こんな情報をいちいち確認する必要はありません。しかし高校で世界史を習って、上記の説明に「あの辺の時代の話か」という見当がつくようになったら、原作を読んでみるのもいい経験になるでしょう。マルケスとフォークナーの紹介で、文学作品から時代や社会を垣間見る読み方について触れましたが、歴史や情勢を知ってから文学作品を読むことにも大きなご利益があります。その後イギリスが「近現代史の極悪人」の側面を見せるようなっていくのを支える、土台のような風潮の一端も窺い知ることができるかもしれません。訳者の吉田健一さんによる「解説」が簡潔かつ明解なので、先に目を通してから読むことをお勧めします。

ガリヴァー旅行記(ISBN 4-00-322093-5)

こちらはさらに曲者です。写真の表紙文句を見ただけでも「いったい何事なのか」といった勢い、中身はもう本当のやりたい放題で、正直私は「下品」だと思いますし、読み物としてそんなに面白いものではないように感じますが、自分が気に入っている本だけを紹介しようとは思いませんし、ロビンソン・クルーソーを紹介したら次はガリバー旅行記、という定番をあえて外すこともないでしょう。

作者のスウィフトはダブリン(アイルランド)育ちのイングランド人で、両国の文学の特徴をドギツいところだけ集めて凝縮したような印象を、私はこの本から受けます。高校生にはお勧めしませんが、興味を持った大人が手に取ってみる分には、ドギツさについてだけは保証のできる本です。

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-参考外部リンク-
The Life and Adventures of Robinson Crusoe (1808) by Daniel Defoe@gutenberg
Gulliver's Travels by Jonathan Swift@gutenberg
Gulliver's Travels into Several Remote Regions of the World by Jonathan Swift@gutenberg (school edition)
2021.09.27 15:25 | 固定リンク | 本の紹介
公立大学校
2021.09.11
北海道には、北海道職業能力開発大学校北海道立農業大学校国立小樽海上技術短期大学校という「公立大学校」があります。制度の詳しい説明はリンク先に譲り省きますが、大枠では「高校を卒業した後で職業的な技能を習う学校」のことで、取得できる学位は学校により異なります。

これとは別に、高校卒業者は国立専門高等学校4年への編入制度もあり、実施状況は学校によりマチマチのようですが、調べてみたところ旭川高専が令和四年度の募集要項を公開していました。

職業志向の進路としてこういう選択肢もある、という認知度がまだそれほど高くないのかなと感じる機会があったので、紹介してみました。
オックスフォード実例現代英語用法辞典
2021.09.05
Practical English Usage(ISBN 978-0-19-420241-1)

紙の英語版、紙の日本語訳、オンライン版など多くの種類があるうち、第4版(2016年)のペーパーバックです。

日本での商品名は「辞典」になっていますが、まさに「実用案内」というのがふさわしい本です。英語を読んでいて腑に落ちない表現を見つけたとき、英語を書こうとして言葉使いに迷ったとき、聞いた英語に何となく違和感があったとき、英語で話したら相手が「わかってはくれたようだけど微妙な表情」をしていたときなど、英語を使ううえで何か問題に出会ったときに、大きな助けになります。まなびやの分類では教材扱いで、図書貸し出しの対象ではないのですが、生徒用の教材ではなく先生用のアンチョコみたいなもので、自信満々で英文を書いてから「ん?」となって、慌ててこの本で調べ物をする私の姿が、まなびやの教室ではけっこうよく見られます。

内容としては、言葉の使い方や使い所や使い分けを、整然とした分類に従って幅広く簡潔に解説し、それぞれに用例がついているという体裁です。後半の語彙分野がとくに秀逸で、たとえば「highとtallはどう違うんだ」などという地味で素朴な疑問に、専門用語に頼らず実例に即した説明で答えてくれます。実用書と達人芸の鑑賞本という違いはありますが、以前紹介した最所先生の読む辞典にも通じるところがあるでしょう。

英文科の大学生は、もしendとfinishの違いがわからなかったら、大辞典でなくともせめて中辞典を引いて、専門用語もゴリゴリ使いながらしっかり確認した方が後々のためですが、卒業して実用英語を使う立場になったときには、こういう本が大変便利です。学生でなくとも、とくに英語を「書く」人にとって、座右に置いて損のない本です。
2021.09.05 16:33 | 固定リンク | 教材の紹介

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