実力テスト問題
2020.07.20
中高生向けのごく短い実力テストを、パブリックドメインで公開します。実施時期は中3の春休み(入学先の高校が決まった直後)が最適だと思いますが、英語以外は中1の生徒でも回答できる内容です。高校3年生であっても、頭の体操程度にやってみて損はないと思います。

問題(解答もこの用紙に書き込む)

どのように実施してももちろん構いませんし、ごく簡単な問題ばかりなので採点基準表のようなものも作っていませんが、問題作成時点では以下のような想定をしていました。

実施の注意点(先生向け)

もし高校1年生がこの問題が解けずに顔面蒼白で落ち込んでいたら、かなり優秀な生徒だといえます。その年代で「自分に力がついていないこと」を正しく理解できる生徒は多くありません。

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努力の基礎
2020.07.20 17:03 | 固定リンク | 配布・公開
ピノッキオの冒険
2020.07.19
左から、伊語版(ISBN 9798632367042)、Lucas英訳(ISBN 978-0-19-955398-3)、杉浦訳(ISBN 4-00-114077-2)
 
日本でも有名なイタリアの児童文学です。最初に断っておきたいのですが、この本は文学作品として見ると三流のものです。わざとらしく、おおげさで、説教臭い話が、作者のご都合通りに取って付けたような調子で続きます。ではなぜわざわざ紹介するのかというと、オックスフォード版の英訳が安価に入手できるからです。

たんに「オックスフォード大学出版が出している本」というだけなら、まなびやの蔵書でいうと「トムは真夜中の庭で」なんかもオックスフォードの本なのですが、このピノッキオの冒険にはそれなりの分量の注釈や参考資料がついていて、しかも内容はごく簡単なものなので「注のあるの本」の入門としてうってつけです。

文学部(とくに英文科)志望の生徒であれば、もう少し本格的な作品に挑戦してみるのも悪くないのかもしれませんが、この本が「文学作品としては不出来」であることにもうひとつのポイントがあります。というのは、大学で教わる「文学」が「社会学」の方面に引っ張られる現象が何十年も続いており、文学部で「研究対象」になるのはたいていこの手の本だからです。

たとえばこの本には「傷病を装うキツネとネコ」が登場します。当時問題になっていた「傷痍軍人を装う詐欺師」を意識していることが見え透いており、ここを取り上げて議論をするのは、かなり取り組みやすい課題であるだけでなく、現代の社会問題の理解を助ける有用な研究になり得ます。社会が福祉を提供するようになれば、それを詐取しようとする人が出てくるのは当然で、福祉の提供をやめない限り根本的な解決はできません。もちろん、時代が下って制度が整えばあからさまな例は減るでしょうが、現代にも似たような問題が、より複雑でわかりにくい形になって残っているはずです。

こういう議論がしたいとき、以前傑作として取り上げたオズの魔法使いのような作品は、抽象的な事柄を巧妙に描いている分、材料として扱いにくくい傾向があります。またピノッキオの冒険は、たとえ短慮浅慮があったとしても、当時の社会にあった問題を小手先で扱おうとはしておらず、だからこそ「三流」に踏みとどまって、読者にはそれなりの読書体験を、研究者には歯ごたえのある研究材料を提供することに成功しています。文学を学ぼうとする生徒には、そういった事情やバランスを体験する機会も貴重なものでしょう。

蛇足ながら、このle avventure di pinocchioは私が生まれて初めて買ったイタリア語の本で、中身はまったく読めません。本を本棚に並べるのが私の趣味なので、読めなくても別に構わないのですが、イタリア語を勉強したい人に利用していただけたら、ただ置物にするよりはずっと、本の価値も出るのかなと思います。

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図書貸出のお知らせ
オズの魔法使い
2020.07.19 12:17 | 固定リンク | 本の紹介
努力の基礎
2020.07.16
勉強に限らず、何かを学習して身に付けるということは、結局「自分を変化させる」ということです。だから「改められない人」は何をやっても伸びません。それ以上に「間違えられない人」はちっとも伸びません。どこを改めるべきなのか、自分で失敗せず他人に教わることができるというのは幻想です。

「勉強ができる、できない」に現在の成績は関係ありません。自力でどんどん間違えて、改めるべきところを探し、変化を積み重ねようという意識を持てたなら、それだけでもう「勉強ができる」状態にあると断言できます。ちょっと奇妙な言い方かもしれませんが、ここが原点、つまりプラスマイナスゼロの地点となり、そこから先は「悪い結果が出る前に変えなければならないところをいかに変えるか」「良い結果が出ないときに続けるべきことをいかに続けるか」という、努力の質の勝負になります。

勉強ができる状態を続けていくには、この「ゼロの地点」に到達するのがどれほど難しいか、マイナスの領域に引き込まれるのがどれほど簡単かを知らなければなりません。勉強ができない状態の例を挙げればわかりやすいでしょう。「間違えることを悪いことだと考えてしまう」「改めずに済ます方法をつい探してしまう」そのようなときにはマイナスの領域にいるのだと考えて間違いありません。つまり、自分を変化させることに行き詰った状態です。

もちろん、プラスの時期とマイナスの時期が交互にやってくるのは自然なことで、調子のいいときがいつまでも続くものではありません。しかし「勉強ができる、できない」が不安定なものであればこそ、そこに自分の意思で働きかけたり、また周囲の後押しを得たりすることで、いくらかは状態を変えられます。この感覚を自分のものにすることが「勉強ができる」ようになった第一の成果になります。

蛇足ながら、では応用力はどういうものかと考えると、目標を伴う努力のことでしょう。この段階に入ると、話は途端に複雑で難解になります。目標を設定し、何を身に付けなければならないか把握し、そのために利用できる環境や時間や費用を評価し、計画を立て、実践しながら修正していかなければなりません。正直に言いますが、どのように取り組むのが正解なのか、私もわかりません。しかし少なくとも、基礎力の堅牢さが応用力を支える要素になることだけは疑いようがありません。

現実には、万全の基礎力を固めてから応用に取り掛かれるのは、ごく一部の幸運な場合に限られます。困難な応用をなんとかこなしながら、基礎力も高めていかなければならないのは普通のことです。だからこそ、基礎に集中できる時間を大切にして、また目の前に切羽詰った課題があるときにも基礎を省みる余裕を持つことが、どうしても必要になります。
英和辞典
2020.07.08
左から、アクセスアンカー英和辞典 第2版(ISBN 978-4-05-304553-9)、コアレックス英和辞典 第3版(ISBN 978-4-01-075127-5)、ジーニアス英和辞典(写真は古い版、この記事を書いている時点での最新は第5版で、ISBN 9784469041804)



辞書は好き嫌いの分かれる教材で、学習や読書の効率にも大きな影響がりますが、英和辞典には簡単にできる「選び方」があるので先に紹介しておきます。できるだけ多くの辞書を揃えている書店に行き、全部の辞書で「take」とか「have」とか「would」とか「in」とか「the」とか、基本的な言葉を何種類か引いてみてください。自然と、自分には物足りない辞書とか大げさすぎる辞書、わかりにくい辞書などをふるい落とせるはずです。候補が複数残ったら、中身よりも読みやすさや持ち運びやすさで選んでしまって構いません。

アクセスアンカー第2版は、コンパクトサイズで持ち歩きやすいのが特徴です。どんなに素晴らしい辞書を持っていても、調べたい単語に出会ったとき手元になければ意味がありません。おまけで和英も一緒になっているので、荷物を大幅に減らせます。もっと小さい辞書がないわけではなく、私も英和と英英で各1冊持ってはいますが、さすがに引きにくく説明も舌足らずなので、学習用にはおすすめできません。アクセスアンカーは単語の説明もコンパクトにまとまっており、中学生がとくに当てなく英和辞書を買うならこれがもっとも無難でしょう。英和24,000項目+和英8,000項目収録しているので、辞書が小さいからといって調べたい単語が載っていないということはそうありません。わざとらしく入門用を誇張した辞書よりはるかに役に立ちます。

コアレックス第3版は、学習向け英和辞典としてほぼ文句なしの出来です。頻出度を反映した説明の詳しさの配分、見やすさ読みやすさ、項目数などすべてが充実しており、帯には「高1から受験まで」と書いてありますが英文科以外の学科なら大学卒業まで使えます。唯一残念なのは、いわゆる文法用語をムリヤリ避けて不自然になった表記や説明が見られることで、そこさえ気にならないなら選んで損はありません。ただ高校1年生に限っては、アクセスアンカーとの見比べはしておいた方が得です。この辞書が必要になる日が3年以内に来るのか、と考えてもし来なさそうなら、必要になるまで待っても遅くありません。

ジーニアスは版によって差が激しい辞書です。第2版は素晴らしい内容ですがさすがに古過ぎ、第3版は酷い有様、第4版もいまひとつでしたが、第5版で完全復活しました。第2版のころは、大学の英文科にも「研究室には大きな辞書もあるけど実際に使うのはジーニアスばっかり」という先生がいたほどよくできた辞書で、私が仕事で英文和訳をしていたときもメインはこれでした。第5版はそれを上回る内容で、この記事を書いている時点から6年前の改訂と少し古くなってはいますが、まだまだ10年くらいは使える辞書であり続けるでしょう。中学生であろうと高校生であろうと、中身を見て「これは気に入った」と判断できる人なら、この辞書を選んで間違いはありません。

電子辞書についても触れておきましょう。あれは実用品であって学習に使うものではありません。私は職業として翻訳をしていたので、パソコン上で動く電子辞書を毎日使っていましたが、デジタル化する最大のメリットは辞書の自作です。ビジネスや科学技術に関する用語は新しいものが次々に出てきますし、ここの業界はこの訳語だけれどあそこの業界だとこの訳語といった使い分けも必要で、20年前でも実務翻訳者なら辞書を自前で作る人は珍しくなく、辞書アプリケーションを使わない人でも自分用の用語集くらい持っているのは普通のことでした。また電子辞書は検索機能が強力で、正規表現を使った串刺し検索を行えます。専門用語が出てきましたがようするに「pで始まってeaで終わる単語を英和辞典3種類と英英辞典2種類から」といった検索をかけられて、結果をいちどに見ることができます。高校生が使う学習図書くらいならあまり問題になりませんが、大辞典とか百科事典のような巨大な本であれば、サイズの小ささもメリットでしょう。こういったデジタルならではの利点を活用するなら、電子辞書は実に便利な道具になりますが、学習用に言葉の使い方を調べるなら紙の方がずっと便利です。

なお、紙の辞書は調べるのに時間がかかるという生徒がもしいたら、練習不足です。フルサイズのパソコン用キーボードならともかく、電子辞書専用機の小さいボタンで紙の辞書を引くより速く入力するのは、インクリメンタルサーチで運よく引っかかるか、よほど短い単語でないとむりです。仮に電子辞書の方が速かったとしても、紙の辞書でも慣れれば1単語あたり5秒まではかからないので、100単語調べても数分の違いにしかならないうえ、情報を目で読む速さは紙の方が勝るはずなので、実際的な時間の節約にはほとんどなりません。パソコンを使って文章を訳しているときには、キーボードから手を動かさずに辞書を使えるメリットがありますが、学習用途ではあまりそういう状況になりません。紙の辞書を「素早く引けるようになる程度」まで使い込めば、紙であるありがたみも自然と理解できるようになっているはずです。
2020.07.08 17:02 | 固定リンク | 教材の紹介
星の王子さま
2020.07.07
左から、仏語版(ISBN 0-15-601398-3)、Howard英訳(ISBN 0-15-601219-7)、石井訳(ISBN 4-480-42160-2)、小島訳(ISBN 4-12-204665-3)
英訳は古本で買ったもので、蛍光ペンの跡が多く書き込みも少しありますが、文章を読むのには支障ない程度です。おそらくどこかの英語教室で、教科書として使われていたものでしょう。
 

これも有名な児童文学ですが、オズの魔法使いよりは少し手ごわい本です。どこが手ごわいかといえば、まずなにより原文がフランス語だということです。私は見るのも嫌なくらいフランス語が苦手なため、英訳を読みながら原文を眺めて「こんな雰囲気なのか」と一人合点するだけで、フランス語の本として読んでみようという意欲がまったくありません。しかし「英訳された本」の入門としては素晴らしい素材です。日本語訳はどちらも(底本は不明ですが)フランス語から直接訳したものだとありますから、英訳との印象の違いを読み比べてみるとよいでしょう。高校生が無理に原文を読む必要はありませんが、もしいつかフランス語を勉強する機会があったら、読み返してみるのにちょうどよいタイミングかもしれません。

英訳は古いもの(1943年のWoods訳)ではなく新しいもの(2000年のHoward訳)で、単語でいうとacclamationやhumiliateなど、フランス語に引き摺られた表現は見られるものの、中学校の英語をしっかり勉強した生徒なら読める内容でしょう。ただしもちろん、辞書は必要です。辞書を手早く引けなくては「中学校の英語をしっかり勉強した」うちに入りません。まなびやの生徒には聞き飽きた話でしょうが、最初から日本語で書いてある本にしても、辞書も引かずにすらすら読めるようなものばかり読んでいては、言葉を使いこなす力は伸びません。もし「辞書を使わずに本を読め」と言われたら「そんな馬鹿馬鹿しいことができるか」と怒り出すのが、本の読み方を知っている人です。

話を戻しましょう。この本の手ごわさはもうひとつあります。それは作者の態度で、読者である子供に「教え諭したい」ことがある、という欲求が透けて見えます。児童文学が何かしらの教訓や説法を含んでいても、それだけで都合が悪いということはありませんが、教え諭すことが目的になってしまっては品が落ちます。理由はくどくど述べませんが「大人の都合で子供に読ませる本」は「近代的な意味での文学」に満たないものだというのが私の意見です。

オズの魔法使いと比べると、この点で「文学作品としても抜群」とは言い切れないものの、だからこそ一歩進んだ読み方ができます。作品が書かれた背景、とくに作者が自由フランス空軍のボランティア(志願兵)であったことをしっかり意識して読めば、献辞で「大人の、子供だったころ」(原文は直説法半過去)に宛てると書いている意味がわかります。そしてこの正直さと誠実さがあってこそ、傑作ではないかもしれませんが、星の王子さまは児童文学の佳作になり得ました。

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2020.07.07 12:53 | 固定リンク | 本の紹介

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