星の王子さま
2020.07.07
左から、仏語版(ISBN 0-15-601398-3)、Howard英訳(ISBN 0-15-601219-7)、石井訳(ISBN 4-480-42160-2)、小島訳(ISBN 4-12-204665-3)
英訳は古本で買ったもので、蛍光ペンの跡が多く書き込みも少しありますが、文章を読むのには支障ない程度です。おそらくどこかの英語教室で、教科書として使われていたものでしょう。
これも有名な児童文学ですが、オズの魔法使いよりは少し手ごわい本です。どこが手ごわいかといえば、まずなにより原文がフランス語だということです。私は見るのも嫌なくらいフランス語が苦手なため、英訳を読みながら原文を眺めて「こんな雰囲気なのか」と一人合点するだけで、フランス語の本として読んでみようという意欲がまったくありません。しかし「英訳された本」の入門としては素晴らしい素材です。日本語訳はどちらも(底本は不明ですが)フランス語から直接訳したものだとありますから、英訳との印象の違いを読み比べてみるとよいでしょう。高校生が無理に原文を読む必要はありませんが、もしいつかフランス語を勉強する機会があったら、読み返してみるのにちょうどよいタイミングかもしれません。
英訳は古いもの(1943年のWoods訳)ではなく新しいもの(2000年のHoward訳)で、単語でいうとacclamationやhumiliateなど、フランス語に引き摺られた表現は見られるものの、中学校の英語をしっかり勉強した生徒なら読める内容でしょう。ただしもちろん、辞書は必要です。辞書を手早く引けなくては「中学校の英語をしっかり勉強した」うちに入りません。まなびやの生徒には聞き飽きた話でしょうが、最初から日本語で書いてある本にしても、辞書も引かずにすらすら読めるようなものばかり読んでいては、言葉を使いこなす力は伸びません。もし「辞書を使わずに本を読め」と言われたら「そんな馬鹿馬鹿しいことができるか」と怒り出すのが、本の読み方を知っている人です。
話を戻しましょう。この本の手ごわさはもうひとつあります。それは作者の態度で、読者である子供に「教え諭したい」ことがある、という欲求が透けて見えます。児童文学が何かしらの教訓や説法を含んでいても、それだけで都合が悪いということはありませんが、教え諭すことが目的になってしまっては品が落ちます。理由はくどくど述べませんが「大人の都合で子供に読ませる本」は「近代的な意味での文学」に満たないものだというのが私の意見です。
オズの魔法使いと比べると、この点で「文学作品としても抜群」とは言い切れないものの、だからこそ一歩進んだ読み方ができます。作品が書かれた背景、とくに作者が自由フランス空軍のボランティア(志願兵)であったことをしっかり意識して読めば、献辞で「大人の、子供だったころ」(原文は直説法半過去)に宛てると書いている意味がわかります。そしてこの正直さと誠実さがあってこそ、傑作ではないかもしれませんが、星の王子さまは児童文学の佳作になり得ました。
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英和辞典
英訳は古本で買ったもので、蛍光ペンの跡が多く書き込みも少しありますが、文章を読むのには支障ない程度です。おそらくどこかの英語教室で、教科書として使われていたものでしょう。
これも有名な児童文学ですが、オズの魔法使いよりは少し手ごわい本です。どこが手ごわいかといえば、まずなにより原文がフランス語だということです。私は見るのも嫌なくらいフランス語が苦手なため、英訳を読みながら原文を眺めて「こんな雰囲気なのか」と一人合点するだけで、フランス語の本として読んでみようという意欲がまったくありません。しかし「英訳された本」の入門としては素晴らしい素材です。日本語訳はどちらも(底本は不明ですが)フランス語から直接訳したものだとありますから、英訳との印象の違いを読み比べてみるとよいでしょう。高校生が無理に原文を読む必要はありませんが、もしいつかフランス語を勉強する機会があったら、読み返してみるのにちょうどよいタイミングかもしれません。
英訳は古いもの(1943年のWoods訳)ではなく新しいもの(2000年のHoward訳)で、単語でいうとacclamationやhumiliateなど、フランス語に引き摺られた表現は見られるものの、中学校の英語をしっかり勉強した生徒なら読める内容でしょう。ただしもちろん、辞書は必要です。辞書を手早く引けなくては「中学校の英語をしっかり勉強した」うちに入りません。まなびやの生徒には聞き飽きた話でしょうが、最初から日本語で書いてある本にしても、辞書も引かずにすらすら読めるようなものばかり読んでいては、言葉を使いこなす力は伸びません。もし「辞書を使わずに本を読め」と言われたら「そんな馬鹿馬鹿しいことができるか」と怒り出すのが、本の読み方を知っている人です。
話を戻しましょう。この本の手ごわさはもうひとつあります。それは作者の態度で、読者である子供に「教え諭したい」ことがある、という欲求が透けて見えます。児童文学が何かしらの教訓や説法を含んでいても、それだけで都合が悪いということはありませんが、教え諭すことが目的になってしまっては品が落ちます。理由はくどくど述べませんが「大人の都合で子供に読ませる本」は「近代的な意味での文学」に満たないものだというのが私の意見です。
オズの魔法使いと比べると、この点で「文学作品としても抜群」とは言い切れないものの、だからこそ一歩進んだ読み方ができます。作品が書かれた背景、とくに作者が自由フランス空軍のボランティア(志願兵)であったことをしっかり意識して読めば、献辞で「大人の、子供だったころ」(原文は直説法半過去)に宛てると書いている意味がわかります。そしてこの正直さと誠実さがあってこそ、傑作ではないかもしれませんが、星の王子さまは児童文学の佳作になり得ました。
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