初めてのシェイクスピア
2021.03.19
どれから読むのが良い悪いなんてことはありませんが、シェイクスピアを初めて読む人や、以前読んでみて挫折した人に、私がお勧めするのは「ヴェニスの商人」と「十二夜」です。

左から、The Merchant of Venice (ISBN 978-0-19-832867-4)、福田訳(ISBN 978-4-10-202004-3)
 
ヴェニスの商人は、シェイクスピアがひたすら「上手い」のを楽しめる作品で、福田訳はその「上手さ」を十分に感じ取れる名訳です。話の筋は、他の多くのシェイクスピア作品と同様、大したものではありません。しかしその組み立てが上手い、見せ方が上手い、語り口が上手い、しかも勉強してから読めば勉強した分だけ新しい上手さに気付ける作品です。

上で紹介している英語版はオックスフォード・スクール・シェイクスピアです。シェイクスピアは400年ちょっと前の人なので、作品に使われている英語も少し古いものが混じっていますが、ちょっと古い表現には徹底的に注釈がついており、現代英語の知識だけで読むことができます。語注だけでなく写真や挿絵も豊富で、とくに人物がどういう格好をしていたかや、実際の上演の様子などを知ることができます。こんなに親切な古典の本があるなんて、イギリス人がうらやましい限りです。

初めての読者に勧めるもうひとつの理由は、この作品の欠点にあります。この本の内容は差別的で、しかもそれを問題視するとか改善しようという意図ではなく、悪意に満ちた差別です。まずはここをきちんと認めなくてはなりません。そのうえで、しかしだからといって作品を丸ごと否定すべきものかどうか、考えてみるためのよい機会になるでしょう。

左から、Twelfth Night (ISBN 978-1-58663-851-1)、松岡訳(ISBN 4-480-03306-8)
 
十二夜は、なんといっても観て読んで面白い作品です。松岡訳の流暢さも申し分ありません。トレヴァー・ナンという監督の映画が素晴らしい出来で、2005年に東北新社が日本語版(EAN 4933364210692)を出したようです。もちろん元の台詞も収録されているので、ぜひ英語音声+日本語字幕で楽しんで欲しい映画です。

英語版はアメリカの出版社のもので、原文と現代英語訳を並べた体裁です。私はあまり便利だとは思わないのですが、似た構成のものが他社からも出ているところを見ると、アメリカではそれなりに人気があるのでしょう。イギリスの出版社がこういうやり方をしているのは見たことがありません。

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-参考外部リンク-
The Merchant of Venice by William Shakespeare@gutenberg
Twelfth Night; Or, What You Will by William Shakespeare@gutenberg
Twelfth Night; or, What You Will by John Philip Kemble and William Shakespeare@gutenberg
2021.03.19 16:29 | 固定リンク | 本の紹介

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