高橋和夫の3冊
2021.11.23
左から、アラブとイスラエル(ISBN 4-06-149085-0)、イスラム国の野望(ISBN 978-4-344-98370-0)
すでに何度か紹介している高橋先生の著書です。
左は1992年の初版で少し古い本ですが、97年の第5刷で少し修正された後のものです。パレスチナ問題を中心とした中東情勢の基礎知識を、惚れ惚れするような手際で解説しています。この著者は「複雑な話から本当に必要な骨組みの情報だけ取り出して説明する」ことに驚くべき才能を発揮する人ですが、この本のとくに第一章では、その手腕が存分に発揮されており、よくできた文学作品を読んでいるときに似た感動さえ誘います。内容が古くなってもその価値は衰えず、むしろ歴史的著述として遺すべき名著でしょう。
右は2015年初版で、入門向けのとても「やさしい」本です。左の本より字も大きくなりましたし、あとがきに
中東から世界が崩れる(ISBN 978-4-14-088490-4)
恐ろしげなタイトルですが、内容にはどことなく希望的な雰囲気があります。中東を語っているときの高橋和夫は、抜群の冴えと切れ味を発揮しますが、アメリカを語りだすと、どこか「私情」を抑え切れないようなところが見え隠れします。後知恵で意地悪な言い方をしてしまえば、この本が出版された2016年なかば、当時のドナルド・トランプ候補が大統領になる少し前には、その感情が「期待」の側に少し振れていて、中東をテーマにしているはずのこの本にも、いくらか流れ込んだのかもしれません。
私の邪推はさておき、この本では「基盤(インフラ)」とくに「知的インフラ」の重要性が繰り返し強調されています。一面的には
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トルコと中東の本
放送大学の授業と印刷教材
すでに何度か紹介している高橋先生の著書です。
左は1992年の初版で少し古い本ですが、97年の第5刷で少し修正された後のものです。パレスチナ問題を中心とした中東情勢の基礎知識を、惚れ惚れするような手際で解説しています。この著者は「複雑な話から本当に必要な骨組みの情報だけ取り出して説明する」ことに驚くべき才能を発揮する人ですが、この本のとくに第一章では、その手腕が存分に発揮されており、よくできた文学作品を読んでいるときに似た感動さえ誘います。内容が古くなってもその価値は衰えず、むしろ歴史的著述として遺すべき名著でしょう。
右は2015年初版で、入門向けのとても「やさしい」本です。左の本より字も大きくなりましたし、あとがきに
「わかりやすく、もっとわかりやすく、さらにもっとわかりやすく」が本書を貫くモットーです。とあるその通りに、どこまでも噛み砕いた親切な解説ばかりです。しかしただ一点、読者に「考える努力を放棄してもいいよ」とささやくような「やさしさ」だけは持ち合わせていない本です。高校生にも十分読める、読めて欲しい内容ですが、もしそれが叶わないなら、まずは大人にこういう本を読んで欲しい、と願わずにいられません。
中東から世界が崩れる(ISBN 978-4-14-088490-4)
恐ろしげなタイトルですが、内容にはどことなく希望的な雰囲気があります。中東を語っているときの高橋和夫は、抜群の冴えと切れ味を発揮しますが、アメリカを語りだすと、どこか「私情」を抑え切れないようなところが見え隠れします。後知恵で意地悪な言い方をしてしまえば、この本が出版された2016年なかば、当時のドナルド・トランプ候補が大統領になる少し前には、その感情が「期待」の側に少し振れていて、中東をテーマにしているはずのこの本にも、いくらか流れ込んだのかもしれません。
私の邪推はさておき、この本では「基盤(インフラ)」とくに「知的インフラ」の重要性が繰り返し強調されています。一面的には
研究者が食べていけるような環境をつくらなければ、いざという時に中東の諸問題を分析する人員が不足する。ということでしょうが、枝葉ではなく根や幹を見れば結局、世の中の人ひとりひとりの「興味」「関心」「知る努力」の質と量にかかっているように思えます。
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