積分は鬼門?
2021.03.08
ちょっと前にsinc関数の極限の話題で高校数学の微積分の定義が少し甘いことに触れましたが、もっと素朴な問題もあります。

高校数学では、微分可能性についてはあんなにうるさく出題されるのに、積分可能性のことはほとんど聞かれません。なぜかというと、積分の定義がきちんとしていないから、もっとはっきりいえば「積分は微分の逆演算ではない」ということをスットボケたままだからです。例によって数学の先生による解説を紹介しましょう。

九州大学 原 隆 先生(数理物理学)による概論
名古屋大学大学院 浪川 幸彦 先生(モジュライ空間、数学教育)による説明
東京大学大学院 会田 茂樹 先生(確率論)による説明
個人的には「上積分と下積分の極限が一致するとき、その極限値」を定積分、不定積分は「aからbまでの定積分でbにxを代入したもの」としておけば、微分係数が「右極限と左極限が一致するとき、その極限値」で導関数が「f'(a)のaにxを代入したもの」であることとのバランスも取れるし、ずいぶんスッキリしそうに思います。積分区間が動くことがあるというのを受け入れておけば、いわゆる広義積分を特別扱いする必要もなくなりそうです。後で完全微分方程式の解法を習うときなども、この理解の方がスムーズかもしれません。

また、不定積分を先に求めないと定積分できないような定義をしていると、数学用語でいう「区分的に定義された」関数の扱いに困ります。たとえばy=|x|はx=0で微分できませんが、それ以外のすべての範囲で微分可能で「x<0のときy'=-1, x=0のとき微分不可能, x>0のときy'=1」ということになります。y'のグラフを描いてみればわかりますが、もし線分に面積がないのなら、この関数を積分(求積)できないというのはとても奇妙です。少なくとも「x=0を含まない区間の定積分」ができないと言い張るのは苦しすぎます。そのうえ、この関数を積分できないことにしておくためには、開区間は積分できないことにしなければなりません。それでいて「aからbまでの定積分=aからcまでの定積分+cからbまでの定積分」は正しいと習います。

この辺の事情を知っておくことで、高校数学のちょっとした取っ付きにくさ、ぎこちなさを、少し緩和できるのではないかと思います。
2021.03.08 18:50 | 固定リンク | 雑談

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