草枕
2020.09.17
岩波文庫版(ISBN 4-00-310104-9)

近代日本文学の特異点、夏目漱石の「草枕」です。

漱石に限らず、明治~昭和初期のいわゆる近代文学は、読書の対象として「難しい」部類のものが大半ですが、そのように感じるのは実は、本を読む「文化」が大きく後退した証拠でもあります。読み手が「読み解く努力」をすることは当然で、辞書をはじめとした準備もしっかりやっているだろう、という前提が通用しなくなったということです。

では現代の人が「昔の」作法で、努力してまで本を読んで何かご利益があるのかというと、私は「ある」と信じていますが、実際にやってみた人にしか理解できない話になってしまうでしょう。この壁だけは本人が自力で乗り越えるしかないものです。

しかしそれでも、理解や鑑賞に努力が必要だという考え自体は、普遍的なものです。ごく素朴な問題として、書き手がどんなに優秀で熱意にあふれていたとしても、勉強しておらず努力する気もない相手に伝えられることなど、たかだか知れています。文学作品に限らず、たとえば数学の知識などでも同様で、基礎知識がない相手には説明が成り立ちませんし、ただ教わろうとしているだけの生徒は結局知識をものにできません。

本の中身と関係ない話が長くなりましたが、この草枕には、読者の労に報いるだけの「用意」があります。一度や二度では「ご利益」のあるところまで辿り着けないかもしれませんが、お手軽な読み物にはない「宝」がちゃんと埋められています。その最初の挑戦を、そしておそらくは最初の挫折を、高校生くらいのときに体験しておくことは貴重な財産になるでしょうし、もちろん、大人になってから読み始めてもまったく遅くありません。

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-参考外部リンク-
夏目漱石 余が『草枕』 (1906)@「ゆっくり考える」 think0298
鈴木三重吉宛書簡―明治三十九年@青空文庫(四四一を参照)
2020.09.17 16:39 | 固定リンク | 本の紹介

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