進路とデータ2
2021.07.03
前回は生徒向けのデータを紹介しましたが、今回は保護者向けのデータを紹介します。この手のデータをご自分で探す際に注意して欲しいのは、データの出所です。もちろん、民間組織が公開しているデータにも有用なものはありますし、見やすさやわかりやすさの点で優れている二次資料もありますが、入手が可能なのであれば、できる限り公的機関が作成した一次資料も確認するべきです。情報に振り回されないための第一歩は、面倒さと付き合うことです。

生徒が自主的に情報を集めることの重要性は前回述べましたが、集めた情報が正しく有用なものばかりであるとは限りません。立てた計画にもどこかしら無理があるでしょう。大人のサポートが必要な範囲は生徒によりさまざまで程度も異なりますが、重要さの割に本人が気付きにくいのが「中途退学者の割合」です。この数字が教育の質に直結するわけではありませんが、あまりに高すぎないことを求めるのは当然でしょう。学校と名前がつくすべての組織に公開を義務付けるべきだと思うのですが、アドミッションポリシーだのディプロマポリシーだのの公開は進んでも、こういう本当に重要な情報がなかなか流通しないのはもどかしい限りです。私の主義主張はさておき、では「あまりに高すぎる」ラインはどこに設定すべきか、と考えるにはベースになる数字がなくてはなりません。

ということで、中途退学者に関する公的な統計を紹介しましょう。これが実に乏しく、文部科学省が平成26年に発表した報道資料学生の中途退学や休学等の状況について4ページに
平成24年度の中途退学者数は、全体で79,311人、設置者別でみると国立大学10,467人、公立大学2,373人、私立65,066人、高等専門学校1,405人となっている。
(略)
年間の中退率は2.65%(平成19年度は2.41%)中退者数(79,311人)を、全学生数(中退者、休学者を含む)(2,991,573人)で除した数
とあるものの、内訳がわからず根拠となった数字へのリンクもない酷い資料です。辛うじて探し当てた大学における授業料滞納・中途退学・休学の状況という資料の2ページ(元資料の176ページ)にある「前回文科省調査」というのが同じ年度で同じ値、「今回調査」にあたる26年度調査で2.12%になっていました。内訳は8ページ(元資料の182ページ)「表8大学・大学院における中退率(昼間部)」にあり、大学1~4年生(学部)の平均中退率は、国立大学で1.20%、公立大学で1.23%、私立大学で2.88%、大学全体で2.41%となっています。このほか、読売新聞教育ネットワーク事務局が中央公論新社から「大学の実力」という本を出版しており、また新型コロナウイルス感染症の拡大後に大学の中退率が下がったというニュースも流れました。

専門学校のデータはさらに入手が困難ですが、公益社団法人東京都専修学校各種学校協会専修学校各種学校 調査統計資料というデータを公表しています。たいへんきめ細かいデータで、調査方法も明示されており、すばらしい活動ではあるのですが、調査範囲が東京都のみで、調査回答率も6割くらいのものが多いことには注意が必要です。自然に想定できるデータの偏り(バイアス)として、状況の悪い学校の方が回答率が低そうだというのは、当然想定しておくべきでしょう。中退率の数字は34ページ以降で、多岐に渡っているため「中途退学者数C」で本文を検索して確認するとよいでしょう。専門課程(いわゆる「専門学校」)の総計で7.5%となっていますが、分野ごとのばらつきが非常に大きい特徴があります。

上で挙げた中退率はどれも年度あたりの数字で、全校生徒のうち毎年これだけの割合が中途退学している、という意味です。当然、履修年数が長ければ、割合が同じであっても中途退学する人数は多くなります。また単に「中途退学」とはいっても、たとえば在学中に自分で始めた商売が軌道に乗ったとか、卒業前にスカウトされて就職したとかいった人もいるでしょうし、そういう人の割合は分野ごと学校ごとに異なるでしょうから、数字を短絡的に良し悪しに結び付けるのは危険です。あくまで、本人が卒業に自信を持てる数字かどうか、似たような分野の学校の中で飛び抜けて悪い数字でないか、といったことが重要です。中途退学率を積極的に公開している学校はほとんどありませんが、生徒に適切な教育を提供する努力をしているなら必ず把握しているはずの数字です。なお比較の参考として、文部科学省が公開している高校生の不登校・中途退学の現状等3ページ(元資料の4ページ)によると、平成22年の高校の中退率は1.64%となっています。

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