ポーターの3冊
2021.11.09
左から、少女パレアナ(村岡訳)(ISBN4 04-221201-8)、パレアナの青春(村岡訳)(ISBN4 04-221202-6)

何度も訳されている本なので邦題も「パレアナ」「パレアナ物語」「少女パレアナ」「しあわせなポリアンナ」「少女ポリアンナ」など複数あります。表紙はフジテレビがアニメ化したときのシーンらしく、登場人物の年齢設定等が原作と食い違っているそうです。

これは大人が「主役」になって子供に読み聞かせる本です。大人が一人で読んでも、その魅力は半分も楽しめないでしょう。ちょうど前回触れたように、ひとつの出来事でも、見る人によって「意味」や「解釈」が異なります。子供から見たこの物語と、大人から見たこの物語は、大きく違っているはずです。そのギャップを相手に大人が悪戦苦闘をする、というのがこの本の醍醐味でしょう。児童文学として冷静に評価を下してしまえば、わざとらしさと安易な成功談が目に付いて、よくできた物語ではありませんが、子供と向き合うにはまず自分が努力しなければならない、ということを大人に教えてくれる本です。

写真の本はどちらも、昭和三十七年(1962年)初版の昭和六十一年(1986年)改版で、表現もかなり古いものです。たとえばパレアナの最初の台詞にしても、
「ああうれしい、おめにかかれてうれしい、うれしくてたまりませんわ。あたしはパレアナです。お迎えにきてくだすってうれしいわ。きてくださるだろうとは思っていましたが」
といきなり強烈です。これを声に出して読むのは、大人にとってかなり骨が折れそうですが、しかしこの古風な、今となってはどこか浮世離れした日本語は、物語の調子によく合います。というのは、この話の舞台が現代日本とはかなり違っているからです。見知らぬ世界のお話が風変わりな日本語で語られるのを、子供が喜ぶか恐れるかわかりませんが、きっとよい経験にはなるでしょう。

右の本は続編で、最初の話にあった文学作品としての欠点を、おそらく著者が反省をして、あれこれと建て直しをしたような印象です。この著者にとってパレアナは、出版されたものだけでも6作目の小説らしいのですが、面白いことに書き振りがどんどん上達していきます。続編の最後などは、シェイクスピア風のありきたりな筋ではありますが、巧みです。こちらは子供に読み聞かせるのにはちょっと無理がありそうなので、最初の本を読み聞かせてもらった子供が自分で本を読めるようになった頃に、あの本には続きがあったんだよと紹介してみるのがよいでしょうか。この2冊と似た「ゲーム」のモチーフが、イタリアの映画La vita è bella(ライフ・イズ・ビューティフル)に出てきますが、関連があるのかどうかわかりませんでした。

スウ姉さん(村岡訳)(ISBN 978-4-309-46395-7)

訳者の村岡さんはあとがきに「出世作である『パレアナ』よりこの『スウ姉さん』のほうに数倍も強く心を惹かれました」と書いています。パレアナのときは著者の欠点に見えた強引さを残しつつ、しかし見事に書き上げられた物語です。初めてこの本を読み終えたばかりの人に言っても、すぐには納得してもらえないかもしれませんが、私が注意して欲しいのは、
スウ姉さんの視点を離れてその人だけ見たとき「ゴルドン(メイでも構いません)がどんなに立派な人物か」
ということです。このことに気付いて読み返せば、物語の空気がガラリと変わるでしょう。まだ読んでいない読者のために一応、白文字で書いておきましたので、上の隙間を選択して色を反転させて読んでください。対象年齢がまた少し上がっていますが、高校生なら十分読めるでしょう。もちろん大人が読んでも楽しめます。

-余談-
ヨーロッパでは長い間、読み書きができる父親は、子供に本を読み聞かせるのが重要な仕事だったそうです。パレアナが書かれた1913年当時、アメリカでも音読の伝統が廃れつつありましたが、子供相手の朗読は、現代日本人が考えるよりもずっと身近なものだったに違いありません。学術的な分析については下の外部リンクを参照してください。

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-参考外部リンク-
Pollyanna by Eleanor H. Porter@gutenberg
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Pollyanna Grows Up by Eleanor H. Porter@gutenberg
朗読の神話学@東北大学機関リポジトリTOUR
2021.11.09 23:12 | 固定リンク | 本の紹介

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