Webで見つけた教材2つ
2021.03.25
紙の教材でなく動画集ですが、東京電力が公開している映像解説「電気の原理」というのが大変よくできているので紹介します。

見方によっては「通り一遍」の解説で、現象を手元で再現してみるための案内や、紹介されている知識にたどり着くための背景、もっと知りたいと感じた人への情報などに乏しいのですが、本当に基本的なところにだけサラっと触れる構成で、高校物理で習う電気の知識を補ううえでの取っ付きやすさがあります。

もうひとつ、マイナビTECH+の 連載【再録】コンピュータアーキテクチャの話 連載 コンピュータアーキテクチャの話というのも大変よくできています。

記事の並び順がちょっと変で、前編4ページめの一番下が第1回、前編1ページめの一番上が第72回(前編の最後)、後編最終ページの一番下が第73回(後編の最初)、後編1ページめの一番上が最新回(現在も更新中)となっています。

高校までに習う内容からスッポリ抜け落ちてしまっているハードウェア寄りの情報を、歴史的な経緯や実際の製品に即して詳しく紹介しており、これからコンピューターハードウェアについて学ぼうとする生徒はもちろん、たとえば加算器の話などは、ソフトウェアを勉強したい人も読んでおいて損がないでしょう。
2021.03.25 15:30 | 固定リンク | 教材の紹介
初めてのシェイクスピア
2021.03.19
どれから読むのが良い悪いなんてことはありませんが、シェイクスピアを初めて読む人や、以前読んでみて挫折した人に、私がお勧めするのは「ヴェニスの商人」と「十二夜」です。

左から、The Merchant of Venice (ISBN 978-0-19-832867-4)、福田訳(ISBN 978-4-10-202004-3)
 
ヴェニスの商人は、シェイクスピアがひたすら「上手い」のを楽しめる作品で、福田訳はその「上手さ」を十分に感じ取れる名訳です。話の筋は、他の多くのシェイクスピア作品と同様、大したものではありません。しかしその組み立てが上手い、見せ方が上手い、語り口が上手い、しかも勉強してから読めば勉強した分だけ新しい上手さに気付ける作品です。

上で紹介している英語版はオックスフォード・スクール・シェイクスピアです。シェイクスピアは400年ちょっと前の人なので、作品に使われている英語も少し古いものが混じっていますが、ちょっと古い表現には徹底的に注釈がついており、現代英語の知識だけで読むことができます。語注だけでなく写真や挿絵も豊富で、とくに人物がどういう格好をしていたかや、実際の上演の様子などを知ることができます。こんなに親切な古典の本があるなんて、イギリス人がうらやましい限りです。

初めての読者に勧めるもうひとつの理由は、この作品の欠点にあります。この本の内容は差別的で、しかもそれを問題視するとか改善しようという意図ではなく、悪意に満ちた差別です。まずはここをきちんと認めなくてはなりません。そのうえで、しかしだからといって作品を丸ごと否定すべきものかどうか、考えてみるためのよい機会になるでしょう。

左から、Twelfth Night (ISBN 978-1-58663-851-1)、松岡訳(ISBN 4-480-03306-8)
 
十二夜は、なんといっても観て読んで面白い作品です。松岡訳の流暢さも申し分ありません。トレヴァー・ナンという監督の映画が素晴らしい出来で、2005年に東北新社が日本語版(EAN 4933364210692)を出したようです。もちろん元の台詞も収録されているので、ぜひ英語音声+日本語字幕で楽しんで欲しい映画です。

英語版はアメリカの出版社のもので、原文と現代英語訳を並べた体裁です。私はあまり便利だとは思わないのですが、似た構成のものが他社からも出ているところを見ると、アメリカではそれなりに人気があるのでしょう。イギリスの出版社がこういうやり方をしているのは見たことがありません。

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シェイクスピア関連の蔵書一覧
-参考外部リンク-
The Merchant of Venice by William Shakespeare@gutenberg
Twelfth Night; Or, What You Will by William Shakespeare@gutenberg
Twelfth Night; or, What You Will by John Philip Kemble and William Shakespeare@gutenberg
2021.03.19 16:29 | 固定リンク | 本の紹介
中学2年生も高校2年生も「過去問」は今すぐ
2021.03.18
いわゆる受験シーズンが終わり、現在の2年生が「受験生」になる時期がやってきました。志望校の「今年の試験問題」を確認していない人はすぐにでも確認しましょう。

普段の授業でも繰り返しているように、ゴールも確認せずにスタートを切るのは非効率です。これから1年で何をどのくらい身に付ける必要があるのか、そのために何ができて何をするべきなのかを、すっかり見通せるわけではもちろんありませんが、この機会にいったん検討しておくべきです。

1年分で十分なので、とにかくこの時期に過去問を解いてみて、今の自分と1年後になるべき自分のギャップがどれくらいあるかということだけでも、ぜひ知っておいてください。
積分は鬼門?
2021.03.08
ちょっと前にsinc関数の極限の話題で高校数学の微積分の定義が少し甘いことに触れましたが、もっと素朴な問題もあります。

高校数学では、微分可能性についてはあんなにうるさく出題されるのに、積分可能性のことはほとんど聞かれません。なぜかというと、積分の定義がきちんとしていないから、もっとはっきりいえば「積分は微分の逆演算ではない」ということをスットボケたままだからです。例によって数学の先生による解説を紹介しましょう。

九州大学 原 隆 先生(数理物理学)による概論
名古屋大学大学院 浪川 幸彦 先生(モジュライ空間、数学教育)による説明
東京大学大学院 会田 茂樹 先生(確率論)による説明
個人的には「上積分と下積分の極限が一致するとき、その極限値」を定積分、不定積分は「aからbまでの定積分でbにxを代入したもの」としておけば、微分係数が「右極限と左極限が一致するとき、その極限値」で導関数が「f'(a)のaにxを代入したもの」であることとのバランスも取れるし、ずいぶんスッキリしそうに思います。積分区間が動くことがあるというのを受け入れておけば、いわゆる広義積分を特別扱いする必要もなくなりそうです。後で完全微分方程式の解法を習うときなども、この理解の方がスムーズかもしれません。

また、不定積分を先に求めないと定積分できないような定義をしていると、数学用語でいう「区分的に定義された」関数の扱いに困ります。たとえばy=|x|はx=0で微分できませんが、それ以外のすべての範囲で微分可能で「x<0のときy'=-1, x=0のとき微分不可能, x>0のときy'=1」ということになります。y'のグラフを描いてみればわかりますが、もし線分に面積がないのなら、この関数を積分(求積)できないというのはとても奇妙です。少なくとも「x=0を含まない区間の定積分」ができないと言い張るのは苦しすぎます。そのうえ、この関数を積分できないことにしておくためには、開区間は積分できないことにしなければなりません。それでいて「aからbまでの定積分=aからcまでの定積分+cからbまでの定積分」は正しいと習います。

この辺の事情を知っておくことで、高校数学のちょっとした取っ付きにくさ、ぎこちなさを、少し緩和できるのではないかと思います。
2021.03.08 18:50 | 固定リンク | 雑談
数学をいかに使うか
2021.02.22
数学をいかに使うか(ISBN 978-4-480-09325-7)

とても重いタイトルの本です。

本書の「はじめに」にを読むと

本書では線形代数と微積分の初歩を学んだ人を主な対象とする(略)大学の理工系に進んだ人、経済学で数学を使う人、中学、高校などで数学を教えている人(略)今学びつつある人ももちろん入る。
(省略は阿部による、以下同様)


とあり、私も中学生や高校生に数学を教えることがあるので、間違いなく「対象」に入っています。その後は
「使えない数学は教えなくてよく、学ばなくてもよい」

と続きます。そうです「いかに使うか」ということを考えずに学んでも意味がありません。使える使えないを考慮しないまま教えるなんて、もってのほかです。

ということで、盛り上がった気分で本編を読み進めると、いきなり現実を突き付けられます。難しすぎてまったく理解できません。だましだましで無理に読み進めましたが、第4章の「四元数環の重要性」という見出しを見て心が折れました。正直に言いますがチンプンカンプンです。ようするに私は、数学を勉強し始めるための準備(=この本の内容)を始めるための準備(=著者の言う「線形代数と微積分の初歩」)を始めるための準備(=私が「線形代数と微積分の初歩」だと思っていたもの)を「ちゃんと理解する」ことから始めなければならない、とそういうことです。そんな難しい本を紹介してどうするんだ、と思う人もいるかもしれませんが、たまには現実に打たれて虚心になることも必要です。その機会を得られただけで、内容は理解できなくても、この本を手に取った甲斐は十分にあるでしょう。

これだけで記事を終わらせるのもちょっと心苦しいので、最後に数学の知識がなくてもなんとなく言っていることはわかるくだりを引用しておきます。

旧制高校の数学の教科書には(略)次の三次または四次方程式を解けというのが少なくとも十五題以上あったと思う。私はひとつも解いたおぼえはない。(略)何でも昔から教えて来たことを無批判に教えるのは愚劣であるが、鶴亀算や旅人算を教えたように、「それを教えることになっている」と中々やめられなかったし、今でもやめられないのである。

なお、まなびやは「生徒が身に付けたいこと」優先の学習塾なので、要望があれば鶴亀算でも旅人算でも教えます。

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2021.02.22 17:03 | 固定リンク | 本の紹介

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