英和辞典
2020.07.08
左から、アクセスアンカー英和辞典 第2版(ISBN 978-4-05-304553-9)、コアレックス英和辞典 第3版(ISBN 978-4-01-075127-5)、ジーニアス英和辞典(写真は古い版、この記事を書いている時点での最新は第5版で、ISBN 9784469041804)



辞書は好き嫌いの分かれる教材で、学習や読書の効率にも大きな影響がりますが、英和辞典には簡単にできる「選び方」があるので先に紹介しておきます。できるだけ多くの辞書を揃えている書店に行き、全部の辞書で「take」とか「have」とか「would」とか「in」とか「the」とか、基本的な言葉を何種類か引いてみてください。自然と、自分には物足りない辞書とか大げさすぎる辞書、わかりにくい辞書などをふるい落とせるはずです。候補が複数残ったら、中身よりも読みやすさや持ち運びやすさで選んでしまって構いません。

アクセスアンカー第2版は、コンパクトサイズで持ち歩きやすいのが特徴です。どんなに素晴らしい辞書を持っていても、調べたい単語に出会ったとき手元になければ意味がありません。おまけで和英も一緒になっているので、荷物を大幅に減らせます。もっと小さい辞書がないわけではなく、私も英和と英英で各1冊持ってはいますが、さすがに引きにくく説明も舌足らずなので、学習用にはおすすめできません。アクセスアンカーは単語の説明もコンパクトにまとまっており、中学生がとくに当てなく英和辞書を買うならこれがもっとも無難でしょう。英和24,000項目+和英8,000項目収録しているので、辞書が小さいからといって調べたい単語が載っていないということはそうありません。わざとらしく入門用を誇張した辞書よりはるかに役に立ちます。

コアレックス第3版は、学習向け英和辞典としてほぼ文句なしの出来です。頻出度を反映した説明の詳しさの配分、見やすさ読みやすさ、項目数などすべてが充実しており、帯には「高1から受験まで」と書いてありますが英文科以外の学科なら大学卒業まで使えます。唯一残念なのは、いわゆる文法用語をムリヤリ避けて不自然になった表記や説明が見られることで、そこさえ気にならないなら選んで損はありません。ただ高校1年生に限っては、アクセスアンカーとの見比べはしておいた方が得です。この辞書が必要になる日が3年以内に来るのか、と考えてもし来なさそうなら、必要になるまで待っても遅くありません。

ジーニアスは版によって差が激しい辞書です。第2版は素晴らしい内容ですがさすがに古過ぎ、第3版は酷い有様、第4版もいまひとつでしたが、第5版で完全復活しました。第2版のころは、大学の英文科にも「研究室には大きな辞書もあるけど実際に使うのはジーニアスばっかり」という先生がいたほどよくできた辞書で、私が仕事で英文和訳をしていたときもメインはこれでした。第5版はそれを上回る内容で、この記事を書いている時点から6年前の改訂と少し古くなってはいますが、まだまだ10年くらいは使える辞書であり続けるでしょう。中学生であろうと高校生であろうと、中身を見て「これは気に入った」と判断できる人なら、この辞書を選んで間違いはありません。

電子辞書についても触れておきましょう。あれは実用品であって学習に使うものではありません。私は職業として翻訳をしていたので、パソコン上で動く電子辞書を毎日使っていましたが、デジタル化する最大のメリットは辞書の自作です。ビジネスや科学技術に関する用語は新しいものが次々に出てきますし、ここの業界はこの訳語だけれどあそこの業界だとこの訳語といった使い分けも必要で、20年前でも実務翻訳者なら辞書を自前で作る人は珍しくなく、辞書アプリケーションを使わない人でも自分用の用語集くらい持っているのは普通のことでした。また電子辞書は検索機能が強力で、正規表現を使った串刺し検索を行えます。専門用語が出てきましたがようするに「pで始まってeaで終わる単語を英和辞典3種類と英英辞典2種類から」といった検索をかけられて、結果をいちどに見ることができます。高校生が使う学習図書くらいならあまり問題になりませんが、大辞典とか百科事典のような巨大な本であれば、サイズの小ささもメリットでしょう。こういったデジタルならではの利点を活用するなら、電子辞書は実に便利な道具になりますが、学習用に言葉の使い方を調べるなら紙の方がずっと便利です。

なお、紙の辞書は調べるのに時間がかかるという生徒がもしいたら、練習不足です。フルサイズのパソコン用キーボードならともかく、電子辞書専用機の小さいボタンで紙の辞書を引くより速く入力するのは、インクリメンタルサーチで運よく引っかかるか、よほど短い単語でないとむりです。仮に電子辞書の方が速かったとしても、紙の辞書でも慣れれば1単語あたり5秒まではかからないので、100単語調べても数分の違いにしかならないうえ、情報を目で読む速さは紙の方が勝るはずなので、実際的な時間の節約にはほとんどなりません。パソコンを使って文章を訳しているときには、キーボードから手を動かさずに辞書を使えるメリットがありますが、学習用途ではあまりそういう状況になりません。紙の辞書を「素早く引けるようになる程度」まで使い込めば、紙であるありがたみも自然と理解できるようになっているはずです。
2020.07.08 17:02 | 固定リンク | 教材の紹介
星の王子さま
2020.07.07
左から、仏語版(ISBN 0-15-601398-3)、Howard英訳(ISBN 0-15-601219-7)、石井訳(ISBN 4-480-42160-2)、小島訳(ISBN 4-12-204665-3)
英訳は古本で買ったもので、蛍光ペンの跡が多く書き込みも少しありますが、文章を読むのには支障ない程度です。おそらくどこかの英語教室で、教科書として使われていたものでしょう。
 

これも有名な児童文学ですが、オズの魔法使いよりは少し手ごわい本です。どこが手ごわいかといえば、まずなにより原文がフランス語だということです。私は見るのも嫌なくらいフランス語が苦手なため、英訳を読みながら原文を眺めて「こんな雰囲気なのか」と一人合点するだけで、フランス語の本として読んでみようという意欲がまったくありません。しかし「英訳された本」の入門としては素晴らしい素材です。日本語訳はどちらも(底本は不明ですが)フランス語から直接訳したものだとありますから、英訳との印象の違いを読み比べてみるとよいでしょう。高校生が無理に原文を読む必要はありませんが、もしいつかフランス語を勉強する機会があったら、読み返してみるのにちょうどよいタイミングかもしれません。

英訳は古いもの(1943年のWoods訳)ではなく新しいもの(2000年のHoward訳)で、単語でいうとacclamationやhumiliateなど、フランス語に引き摺られた表現は見られるものの、中学校の英語をしっかり勉強した生徒なら読める内容でしょう。ただしもちろん、辞書は必要です。辞書を手早く引けなくては「中学校の英語をしっかり勉強した」うちに入りません。まなびやの生徒には聞き飽きた話でしょうが、最初から日本語で書いてある本にしても、辞書も引かずにすらすら読めるようなものばかり読んでいては、言葉を使いこなす力は伸びません。もし「辞書を使わずに本を読め」と言われたら「そんな馬鹿馬鹿しいことができるか」と怒り出すのが、本の読み方を知っている人です。

話を戻しましょう。この本の手ごわさはもうひとつあります。それは作者の態度で、読者である子供に「教え諭したい」ことがある、という欲求が透けて見えます。児童文学が何かしらの教訓や説法を含んでいても、それだけで都合が悪いということはありませんが、教え諭すことが目的になってしまっては品が落ちます。理由はくどくど述べませんが「大人の都合で子供に読ませる本」は「近代的な意味での文学」に満たないものだというのが私の意見です。

オズの魔法使いと比べると、この点で「文学作品としても抜群」とは言い切れないものの、だからこそ一歩進んだ読み方ができます。作品が書かれた背景、とくに作者が自由フランス空軍のボランティア(志願兵)であったことをしっかり意識して読めば、献辞で「大人の、子供だったころ」(原文は直説法半過去)に宛てると書いている意味がわかります。そしてこの正直さと誠実さがあってこそ、傑作ではないかもしれませんが、星の王子さまは児童文学の佳作になり得ました。

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英和辞典
2020.07.07 12:53 | 固定リンク | 本の紹介
ネイティブの感覚で前置詞が使える
2020.06.25
ISBN 978-4-86064-275-4
 

英語を勉強するすべての人に使って欲しい教材です。もし小学生に英語を教えるならこういうことをやって欲しい、3年生から6年生までの4年間ずっとこれだけやっていてもいいというくらい、本当にためになります。もしかするとアメリカやイギリスの小学生も、似たようなことを「国語」の時間に勉強しているかもしれません。

私は大学の英文科を卒業して、いわゆる実務翻訳を10年近く仕事にしましたが、正直なところこの本の内容は半分も身に付いていませんでした。反対から言えば、この本の内容を身に付けなくても大学の英文科に入学して卒業することはできる(少なくとも過去の学校制度ではできた)ということですが、これをきちんとやっておけば、受験英語や実務英語を勉強するうえでも必ず役に立ちます。もし私が中学1年生のときにこの本に出会えていたら、いままで経験した「英語の苦労」が半分になっていたかもしれません。

そういうわけで、私としてはぜひともおすすめしたい教材ですが、まなびやの生徒にはまったく人気がありません。基礎的なことが「しっかりわかる」とどれほどの助けになるか、順序よく勉強することでどれほど楽になるか、まだまだ伝えられていない証拠でしょう。今すぐにでなくても、いつか英語を「ちゃんと勉強したい」と思ったときに、ぜひ手に取って欲しい本です。
2020.06.25 16:41 | 固定リンク | 教材の紹介
2分学習
2020.06.22
すべての生徒と保護者の方におすすめしている「毎日最低2分間の家庭学習」を紹介します。正しく継続すれば必ず力が付く方法で、大学受験が控えている生徒であっても、まずはこれができてから次を検討するのが結局近道です。やり方は簡単です。
  • 中1・2年生は学校で指示された課題や宿題を2分間に含めても構いませんが、中3・高校生については「自分で選んだ内容」で、たとえ学校の講習で12時間勉強した後でも、毎日家で2分間は勉強します。

  • 中学1・2年生は「机の整頓なども含め学校の授業を受けるのと同等の環境」で、中3・高校生はさらに「試験を受けるときと同等の緊張感」で勉強します。しっかり準備せずにやった分を「最低2分間」に含めてはいけません。

  • 勉強を始める時間はなるべく固定します。何かの都合で固定できない場合は、この時間に始められない日はこの時間にやる、といったように第2候補を作る案もあります。

2分間の勉強ができたら、あとはすべて自分の判断です。

この勉強法では、生徒よりも保護者の方にいくつか注意点があります。
  • 「毎日2分」という部分については一切の言い訳を認めない代わりに、それ以降の部分や勉強の内容は生徒に任せ、本人が助言を求めない限り口出ししないでください。メリハリが大切です。

  • 試験の成績が悪くても「毎日2分」さえできていたなら「満点」の取り組みとしてください。結果を評価するのは学校の先生の仕事、生活習慣を守り自主性を育てるのが家庭の役割、とはっきり区別します。

  • もしどうしても「勉強しなさい」「試験は大丈夫なのか」「何だこの成績は」と言いたくなったら、生徒本人以外の誰かを身代わりにしましょう(実はこれ、学習塾の大切な役割のひとつだと私は考えています)。

  • 失敗や効率の悪い努力もさせてあげてください。たとえば早朝や夕食前など後ろに予定が入る時間帯の勉強はおすすめしませんが、本人が望むならその時間帯で構いません。

とくに最後の1つが重要です。自力で間違えられない生徒は自力で正解できませんし、自力で失敗できない生徒が自力で成功することもできません。

もちろん、毎日2分どころではない勉強を自分の意思で何年も続けている生徒はたくさんいますから、これだけですべてを乗り越えられるわけではありません。ここで紹介した勉強法は、努力の質も量も無視して、ただ習慣化に手を付けるだけのものです。しかし、第一歩が着実で現実的なものであることは後々大きな助けになりますし、たとえ進学以外の進路を選んだとしても、きっと何かの役に立つ経験になるでしょう。
オズの魔法使い
2020.06.20
左から、英語版(ISBN 978-0-486-29116-1)、河野訳(ISBN 978-4-10-218151-5)、朗読(ISBN 978-1-5318-7742-2)
 
話の面白さ、生き生きとした文章、適度な長さといった内容だけでなく、デンスローの挿絵も素晴らしい、アメリカ児童文学の傑作です。

原文は高校生くらいの英語力があれば読める内容で、小難しい「受験英語の長文」に比べればはるかに読みやすいでしょう。かといって、取って付けたような「易しい英語」ではなく、読み進める努力に応えてくれるような「優しい英語」です。朗読も不自然にモタモタ読んでいるようなところがなく、日本人にとっては聴き取る難易度が高いものの、アメリカ英語本来のリズムやテンポを垣間見られます。

この本に限ったことではありませんが、まずは英語版を最後まで読み、改めて日本語訳を最初から、おかしいなと感じる所があれば原文も確認しながら読むのがよいでしょう。児童文学は、異文化圏の人たちと話すときの共通の話題にもなってくれますし、彼らの感性や考え方の根深い部分をうかがい知るための手がかりにもなります。

中学生が読むには少し大変かもしれませんが、田舎は高校受験にメドがつくのも早いので、余裕のある人にはぜひ挑戦してみて欲しいと思います。もちろん高校生以上でも、まとまった長さの英語の本を初めて読む人にはうってつけです。

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-参考外部リンク-
The Wonderful Wizard of Oz by L. Frank Baum@gutenberg
The Wonderful Wizard of Oz by L. Frank Baum@gutenberg(朗読)
2020.06.20 14:10 | 固定リンク | 本の紹介

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